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特集「令和の新春ベストコレクション」

2020年1月13日

特集「令和の新春ベストコレクション」⑬ 
天国でまた会おう(下)(2019年 社会派映画)

監督 アルベール・デュポンテル

出演 アルベール・デュポンテル/ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート/メラニー・ティエリー/ローラン・ラフィット

シネマ365日 No.3086

飛翔 

令和の新春ベストコレクション特集

記念碑コンクールにエドゥアールの作品を審査員は満場一致で推薦した。主催者であり金主は銀行総裁の父親だ。彼は娘が見せたエドゥアールの遺品のデッサンと、コンクールに出品したデッサンの類似に気づく。娘婿プラデルを呼び、今度だけ尻を拭いてやるから「ジュール・デプルモン」(エドゥアールが使用した戦死者の名前)という男を秘密裡に探せと命じる。街でプラデルを見かけたアルベールはタクシーで後をつけた。行先は戦没者墓地だった。担当者に指示しているプラデルに「中尉」とアルベールは呼びかけ拳銃を向けた。温和な顔が憎しみに歪んでいる。戦友を無益な死に追いやった男、ゲームのように敵と味方を殺した男。撃つまでもなかった。プラデルの足場が崩れ作業中の穴に落ちた。土砂が上からなだれ落ち、彼は窒息死▼本来ならこれでエドゥアールの復讐はすんだのか。いや、ひとつ思い残しがあった。超一流のホテル・リュテシアに泊まっている彼を父親が訪問する。「ジュール・デュプルモン」の居所を探り当てたプラデルは、リュテシアに宿泊しているが24時間後にチェックアウトすると報告していた。父親は詐欺行為には触れず「君の絵が私の知人の絵に似ている。もしかしたら知り合いではないかと思って来た」。エドゥアールは青い孔雀の仮面をつけていた。「彼に言いたかった。お前が正しかった。人は自由だ。お前は天才だ。認めない方がバカだった。それから言いたい。お前は私の息子だ。誇りに思っていたと」。エドゥアールは父を抱きしめ、かろうじて聞き取れる声で「ありがとう」そして「天国でまた」と言い残すやベランダに走り、最上階のスイートから身を躍らした。これがエドゥアールの生涯の清算だった。つけていた孔雀の仮面は死の使者。顔を失った時に才能も命も未来も投げ捨てた。取り替える仮面だけで、一瞬、一瞬を生きていただけだ。しかし父にだけは認めてほしかった。初めて父を屈服させた自分の価値に、もう思い残すことはない▼人生はこれからじゃないかと、アルベールなら言うだろう。俺もルイーズも、お父さんも姉さんも君の味方だ。君の描く絵は天下無敵だ。仮面が君をいっそうミステリアスに、魅力的にしてくれる。社会的成功は今や手のうちだ。お父さんも、銀行総裁の息子が天才画家なんて、鼻が高いだろう…それは間違いない。でも根本的に違うのだ。愛と理解に満ちた幸福な環境は、自分の棲息する場所ではない。父親から疎外され、余計者とみられ、死者の集う戦場で自分は研ぎ澄まされてきた。受け入れない世間、人に見せられない顔に仮面をつけ、その下に暗い微笑みをたたえ、半身のようなアルベールとルイーズの間でだけ息ができた。隠花植物が太陽の下でどうやって生きられる。これでいいのだ。死の鳥、孔雀は最後の飛翔を羽ばたく▼「長い複雑な物語」を憲兵隊支部で語り終えたアルベール(墓地のプラデル事故死の一件で殺人容疑に問われ聴取されていた)を、隊長は釈放した。「俺は今から10分間外出する。手錠の鍵はデスクに置き忘れる。電話は故障中だ(線を引きちぎる)。回線が繋がるのは明日。国境まで徒歩で数時間。タクシーで1時間」「なぜそんなに」「戦場で背中を撃たれて死んだ兵士は?」「テリウーとグリゾエです」。隊長は黙ってデスクの写真を見せた。「グリゾエは息子だ」。ラストはモロッコ。赤茶色の土に建物。人種のるつぼ・砂漠の街にアルベールは着いた。迎えたのは少女ルイーズにポリーヌ。エドゥアールの屋敷のメイドだった彼女とアルベールは恋仲だった。三人が並んで歩く後ろ姿をロングで映し、物語は終わる。平和っていいものだ。愛し合い信じ合える誰かがいるのはいいものだ。エドゥアール、君が棄てた世界にも、いいことはあるのだよ…でもね〜、陽の当たる場所を拒絶し、孤独と静寂と死の仮面をつけて生きるエドゥアールって超魅力的だったわよ。

 

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