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特集「パイオニア・ウーマン」

2020年1月14日

特集「パイオニア・ウーマン」① キャスリン・ビグロー1 
悪魔の呼ぶ海へ(上)(2000年 劇場未公開)

監督 キャスリン・ビグロー

出演 キャサリン・マコーマック/ショーン・ペン/サラ・ポーリー/エリザベス・ハーレイ

シネマ365日 No.3087

やっぱりビグローさん 

特集「パイオニア・ウーマン」

女性監督の世界もダイバーシティそのもので、多士済済として、個性ある作品を世に送り出しています。キャスリン・ビグローは女性監督初のオスカー監督賞受賞が一時枕詞になりましたが、そんなもの、とっくの昔に置き忘れたように、いい映画を次々作り出しています。他の女性監督にはない彼女の特質は、どれもみな「ドスが利いて」いること。腹の据え方というか、首をねじ切るというか、特に女が一人で意思を貫く戦い方になると、表向きは地味でもテコでも動かないクソ力を感じさせる。「ブルースチール」では、絶叫クイーンであった、ジャネット・リー・カーティスが自分を容疑者に追い込んだ犯人と一対一で向き合う捜査を、「ゼロ・ダーク・サーティ」では「他人事」みたいになってしまったヴィン・ラディン追跡を執念で追う、CIA分析官マヤ(ジェシカ・テャスティン)の孤独を描ききりました▼本作はビグローの監督歴の中期に当たり、歴史的赤字を出した「ストレンジ・デイズ」の後を受けて発表され、当然挽回は期していたでしょうが興収はペケ、さっぱり受けず日本では未公開となりました。しかしながら、私はとても好きな映画でして、ビグローの「ドスの利かし方」が明らかに思えるのです。それがよく表れている点その①ヒロインがよき主婦、よき妻でありながら、複雑な自分自身のキャラに追い詰められる②戦争や殺人という社会の表に出た事象は様変わりしても、いつの時代も問題は人間③女性へのエールが熱い。本作は19世紀に起こったショールズ諸島の惨劇を現代の女性カメラマンが構築し直す、という視点で進行します。島で二女性が惨殺された。一人は斧で頭をわられ、一人は絞殺だ。犯人は死体のそばでお茶を飲んだ形跡がある▼登場人物は少ない。ヒロインはノルウェーからの移民マレン(サラ・ポーリー)、夫で漁師のジョン、マレンの後から島に来た姉のカレン、兄のエヴァンと妻のアネット。ジョンの友人だという漁師のワグナー。現代では写真家ジーン(キャサリン・マコーマック)と詩人である夫トーマス(ショーン・ペン)、夫の弟リッチと恋人のアデリーン(エリザベス・ハーレイ)。このふた組の家族の出来事が時間軸を交錯して語られます。過去の殺人事件とは、マレンの姉と兄嫁が深夜殺害された。マレンの証言によって夫の友人ワグナーが逮捕された。女しか家にいないことを知っていたのは彼だけだった。ワグナーはリウマチを患って歩くのも不自由と言いながら、ジョン(夫)のいないところではマレンと接触したがり(肩を揉めとか、マッサージしろとか)、同居していた兄嫁もレイプするクズ男だった。事件の取材を兼ねて島に来たジーンは調べるうち犯人はワグナーではないと確信する。島の裁判所でマレンの供述書を読み、真相を知った。マレンはなぜ実姉と兄嫁を殺したのか。本作はホラーでもサスペンスでもミステリーでもありません。供述書が書かれたのは事件の2年後、ワグナーが処刑された後でしたが、警察関係者は「女性が情緒不安定で妄想するのはよくあること」として再捜査しようとせずうちすてられました。マレンが語る殺害の背景を、監督は「人間ってこうなる時があるのよ、そして彼女はそうなってしまったのよ」とばかり、ゴロンと丸太のように転がします。この辺りが柔道で言えば大外刈りのような荒技で「ビグローさんやなあ」と思うのです。

 

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