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特集「ベストコレクション」

2020年2月14日

特集「春息吹く2月のベストコレクション」③ 
ザ・バニシング-消失(下)(2019年 サイコ映画)

監督 ジョルジュ・シュルイツァー

出演 ベルナール・ピエール・ドナデュー/ヨハンナ・テア・ステーグ

シネマ365日 No.3117

人間の罠 

特集「春息吹く2月のベストコレクション」

アレックスは、しかし一度は正気に戻るのだ。「サスキアに何をした?まだ生きているのか」とアレックスはルモンに詰め寄った。「このコーヒーには睡眠薬が入っている、飲めば恋人と同じ道をたどる。知りたいのは真実だろう? それを知る唯一の方法だ。判断を誤れば真実は闇の中。コーヒーを飲めばわかる」とルモン。「もういいよ。わかったよ。僕は帰る」アレックスは背を向ける。ふと思い出した。サスキアが失踪する直前、二人で木の下にあるものを埋めた。あの木だ。埋めたのは2枚の金貨だった。まるで金色の卵のようにそれは並んで土の中にあった。アレックスは呪縛にかかる。離れないと誓ったのに、サスキアのそばにいなかったために彼女を見失ってしまった。今度こそ一緒にいよう。アレックスはコーヒーを飲み干す▼気がついたのは暗い四角い棺の中だ。これが真実? サスキアは殺され棺に入れられ土に埋められた。自分も同じ道をたどる…アレックスは叫ぶが声が届くはずはない。ライターで棺の隅々を照らしたが、その明かりも尽きてしまった。シーン一転。明るく和やかなルモンの山荘。妻は庭木の手入れ。娘たちは笑顔。戸外のテーブルに泰然と座るルモン。新聞があり「恋人を探していた男性、行方不明」の見出し。救われませんね。後味の悪さこの上なし。もっと後味の悪いことは、私たちの身近で起こる失踪、殺人、傷害事件の多くが「我らが隣人ルモン」によって行われていること。いや「隣人」ではなく私たち自身さえ、現実の裂け目から手を伸ばす「ルモン」に心を奪われはしないか。クロード・シャブロル監督ならそこを映画にする気がする。ルモンがなんども丁寧に女性の首を絞めるリハーサルをする。クロロホルムで眠らせる時間を正確に測定する。声をかけるタイミングを練習する。彼は教師で身なりを整え、卑しからぬ風体で礼儀正しい。でもどこかおかしい。(けったいなオッサン)としか言いようのない、ネトネトした視線、クソ丁寧なもの言い、すぐ車に乗せたがること。彼の変態を見破った娘のバレエの女教師は「ルモンさん、次は高速で家から遠くのサービスエリアで降りて声をかければ、うっかり知り合いをナンパする失敗は避けられるわ」と忠告する。彼はこの通り実行したのだ▼それにしてもゾッとする。板子一枚下の地獄、私たち自身の足元の危機にゾッとする。ハッピーなだけが、愛と希望に満ちた映画だけが人を幸せにするものではないに違いない。ひょっとしたらこの映画は、社会が仕掛ける人間の罠を知るために世に現れたかもしれないのだ。本作はそんな気にさせる稀有な映画だった。

 

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