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特集「ベストコレクション」

2020年2月20日

特集「春息吹く2月のベストコレクション」⑨ 
ニューヨーク 最高の訳あり物件(2019年 コメディ映画)

監督 マルガレーテ・フォン・トロッタ

出演 カッチャ・リーマン/イングリッド・ボルゾ・ベンダル

シネマ365日 No.3123

自分の物差し 

特集「春息吹く2月のベストコレクション」

40を過ぎた女性は賞味期限切れ、とばかり若い女性に目移りを繰り返す男ニック。一方的に夫ニックに捨てられた妻ジェイド(イングリッド・ボルゾ・ベンダル)はショックのあまり半狂乱になる。彼女は相手の女に会いに撮影中のスタジオに押しかけるが「ニックとは愛し合っている。あなたは過去の人よ」とにべもなく撥ね付けられた。ジェイドは彼女がニックの前妻マリア(カッチャ・リーマン)の若い時に似ているという(演じたのはカッチャ・リーマンの実の娘です)。マリアは乗り合いバスからマンハッタンに降り立った。摩天楼を見上げながら元いた我が家に入る。ニックが離婚の慰謝料に家の半分を譲ると聞いて、ベルリンから来たのだ。ジェイドが帰宅する。「ハロー」「なんであなたがここに。出て行って」でも合法であり権利はマリアにある。建物を二分割した元妻同士の奇妙な共同生活が始まった▼マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の初のコメディ。作りこみが精緻だ。マンハッタンの高級不動産事情や、環境先進国ドイツのシンボルのようなマリアの自然志向、対して資本主義社会の覇権国アメリカのサクセス主義のジェイド。元モデルで現在デザイナー、ブランド立ち上げに心血をそそぐジェイドの孤軍奮闘があれば、(ケッ。何をガツガツ)余裕綽々のマリア。冷蔵庫の中のダイエット、レトルト食品を一掃、彩りも豊かな野菜、果物、新鮮な肉で埋める。節制と称するジェイドを横目に、自前の料理をうまそうに食べるマリア。やせ我慢を張ったものの空腹に耐えかね、夜中にジェイドはケーキをパクリ、蠱惑的な美味に我を忘れ平らげる。資本不足でジェイドの初コレクションは暗礁に乗り上げた。ニックに無心するのはイヤ、マンションを売るしか方法はないが、マリアはガンとして動かない▼マリアは20世紀文学の博士号を持つ教授だ。しかし子育て期間中のブランクのためキャリア不足。「アメリカでは女性は早い時期から自立を目指すわ」と採用面接で嫌味を言われた。マリアは書店主に頼み「バッハマンの生涯と作品 マリア・アンダーソン教授」と講座のポスターを出す。学生が3人、受講を申し込んだ。しかしマンションの管理費は高い。一緒に住むなら折半とジェイドは請求する。払えるはずもない。ベルリンからマリアの娘アントニアと息子(つまり孫)パウロが母親に会いに来る。アントニアは植物学者だ。ベルリンの香水会社のアドバイザーをしている。ジェイドはひらめく。香水ブランドを立ち上げよう。アントニアとジェイドは意気投合し新作発表に邁進。マリアは子守を押し付けられた。趣味の悪いアメリカの現代絵画にゾッとするマリア。それに無限の価値を見出すジェイド。詩と文学を読むマリアに朝から晩まで烈火のごとく仕事するジェイド。マリアはニックに未練タラタラのジェイドの幻想を打ち砕き、ジェイドはマリアが怠け者だとなじる。しかし二人は「捨てられた妻」という奇妙な絆によって、夫のものでも男のものでも、また世間が押し付ける、いわゆる女のものですらない「自分の物差し」を体得していく▼監督の辛口はアントニアがジェイドに言わせるこのセリフ。「私の家はベルリンよ。お金と成功がすべての国で息子を育てたくない。ブランド事業で生きていく気もない。家を売ればあなたの念願の大金が入るわ。私のために母は自分の人生を後回しにした。勝気な母が私のために自分の家の鍵を手放し、あなたがそれを横取りしたのよ。最低よ。さよなら」ラストは若い女に捨てられたニックがジェイドとよりを戻そうとする。ジェイドは条件付きで許可する。条件とは「二人一緒」。マリアと一緒の二人三脚を選ぶのだ。お前が捨てたのはどんな女たちだったか、目にもの見せてくれよう…女の自主独立の奇想天外かつハッピーなエンドが、社会派バリバリのトロッタ監督らしい。本屋の片隅で一人詩集を読む、カッチャ・リーマンの静かな姿が印象的です。この本屋はイーストビレッジにある有名なストランド・ブックストアです。創業92年、デビッド・ボウイ、故キャリー・フィッシャー、トム・ハンクスら有名人をファンに持ち、2019年6月、ニューヨーク市は歴史建造物に指定しました。

 

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