女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ベストコレクション」

2020年3月9日

特集「春のうららのベストコレクション」⑨ 
クロール 凶暴領域(下)(2019年 ホラー映画)

監督 アレクサンドル・アジャ

出演 カヤ・スコデラリオ/バリー・デッパー

シネマ365日 No.3141

アジャのホラーづくり 

特集「春のうららのベストコレクション」

命からがら、屋根に退避した父娘とワンちゃんは九死に一生を得ます。パパは地下室から発煙筒を持って出ていた。頭上にヘリコプターが。折しもハリケーンは「目」に入っていた。雨風が止み、どんよりした雲の切れ間だ。ヘイリーは発煙筒を振る。ヘリコプターから合図が返った▼アレクサンドル・アジャ監督のホラーは大きく分けて三つの傾向があります。一つは「ハイテンション」「ミラーズ」「マニアック」「ルイの9番目の人生」のサイコ系。一つは「P2」「ピラニア3D」そして本作のパニック系。あと一つは「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ホーンズ/容疑者と告白の角」の怪奇系。怪奇はどの作品にも通底しますが。どれもみな彫り込みが深いし、俳優の使い方が独特です。「ハイテンション」では上昇気流にあったセシル・ド・フランスを狂気の連続殺人鬼に、「ホーンズ…」では「ハリポタ」のダニエル・ラドクリフの頭にいきなり角が生え、それが人々の隠しもった欲望をあらわにさせる。共演のヘザー・グラハムは嘘の供述をしたために妄想の蛇にうじゃうじゃと絡みつかれ狂乱していました。どの作品にも必ずと言っていいほどヒューマンな登場人物がいて、それがアジャの映画を強くしているのか、弱くしているのかは評価が分かれるかもしれませんが、私には彼が叙情を描かないではおれない作家に思えます。「ルイの…」では狂気の母親をかばう少年がいたいけでした▼本作では父娘の絆でしょう。大会代表を逃した娘は父親の言葉を思い出す。「泣くな。人が見ているぞ。次は勝てる。お前は何者だ?」「頂点捕食者」と娘は答える。これがワニ撃退のキーワードとなります。父親は娘にトラウマがあることを知っている。「メンタルさえ強くなれば勝てる。もっと自分を信じろ。お前には才能があるから厳しくしたのだ。大会の記録は何秒だった」「100分の2秒差で負けたの」こんな会話をワニの泳ぐ前でかわす父娘ですから推して知るべし。ヒロインはワニと向き合った時、自分に言い聞かせます「私は頂点捕食者」。本作は、ヒロインが自分との対決で殻を破る映画でもありました。この傾向は他の作品にも共通します。「P2」なんか、命の土壇場でサディスティックなまでに目覚める、ものすごいヒロインを創出しています。「強くなければ生きていけない、やさしくなければ生きていく資格がない」とは、アジャの意外な、ああ見えて「なにわ節」的信条ではとさえ、疑ってしまうのです。冷静、真摯、人間の狂気への恐れとリスペクト、そしてどこかに必ずあるヒューマンな視点。これらの点において、血しぶきドバドバのホラー映画と一線を画する作家です。

 

あなたにオススメ