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特集「異形の美術館」

2020年3月12日

特集「異形の美術館2」② 
シーバース(1975年 劇場未公開)

監督 デヴィッド・クローネンバーグ

出演 ポール・ハンプトン/スーザン・ペトリ

シネマ365日 No.3144

へその緒 

特集「異形の美術館2」

デヴィッド・クローネンバーグの長編第一作。超豪華マンション「スターライナー」で、何の説明もなく、争う親子、歯を磨く男、不機嫌な夫婦たちが登場する。親父は娘の首を絞めて殺し、テーブルに横たわらせ服を脱がせる。歯を磨きながら男は腹の辺りに手のひらを当て、何かを確かめる。この男は保険会社の管理職で、妻が気をつかうのも無視して不機嫌そうに出勤する。警察が来て事件を調べる。マンションの医療施設の責任者セントルックが立ち会った。殺した親父はホッブスという元大学教授。少女は時々見かけたが詳しい関係は知らない。セントルックの友人の教授ロロはこんな話をする。「我々は臓器移植に代わるものを探していた。そこでだ、人間の臓器と同じ機能を果たす寄生虫を体内で繁殖できたとしたらどうだろう」クローネンバーグの「内臓映画」のはしりとなる作品です。「例えば循環器系で腎臓のように血液をろ過するとか。移植した寄生虫が腎臓を吸収し体がその擬態に順応すると擦れば、寄生虫は腎臓にとってかわるわけだ。殺された少女はホッブスの教え子アナベルで12歳。ガンがないか胸を診察しているところ(12歳ですよ!)を目撃されているが、彼女を連れてきてあんなことをするなんて」▼マンションで異様な現象が立て続けに起こる。水道の蛇口や通気口から、ぬらぬらした液体の這った茶色の痕が残り、ツチノコみたいにずんぐりした虫が、住人に飛びつき、肌を食い破る。しばらくするとその住人は何もないように立ち上がるが、目つきは異様で次の獲物となる人間を襲撃するのだ。ホッブスの研究を調べたロロは急遽、診療所のセントルックに告げた。「ホッブスは我々を騙していた。人間は思考しすぎる生物と考え、肉体や本能を忘れていると捉えた。彼の解決策が寄生虫だ。催淫性と性病を併せ持つ寄生虫が世界を快楽の渦に巻き込むのだ。アナベルがモルモットにされた。彼女に寄生虫を移植したら手に負えなくなって殺したってわけだ」セントルック「現在3人の男性が腹部に正体不明の動く腫瘍を宿している」感染はすでに始まっていたのだ▼寄生虫は瞬く間に人間を餌食にする。「自分でも何が起きたかわからん程の速さで寄生される。ポイントは催淫症状で、性欲丸出しのやつを捕まえれば治療法を試せる」。それより感染の方が早かった。中盤以後、マンションの住人全員がセックスと人肉食の虜となり、マンションの周辺をぞろぞろ集団で歩くゾンビと化します。この辺りになると、低予算の悲しさ、セットもチャチで、エキストラたちは好き勝手に歩いており、撮影は短期間でゲリラ戦のような製作でしたが、それと本作の新しさは別です。腹を食い破ってツチノコが出てくるシーンはのちの「エイリアン現象」の元祖となった。本作はカナダで初めて作られたホラーで、当時ホラー映画とさえ認知されなかった。クローネンバーグは「シーバース」を撮るなら自分の監督で、とこだわり企画3年目に実現させた粘り勝ちのデビューだ。人間の体内を秘密裡に動く生物への、クローネンバーグの愛着と、異形の形態への憧れが明瞭すぎるほど明瞭です。このクリーチャーによって、人間は隠し持っていた恥も外聞をも暴露され常軌を逸し、しかもそれを嬉々と受け止めて行動する。クローネンバーグが後年、セクシャリティと無意識を連結させた傑作を問うヘソの緒は、この処女作に明らかです。彼は本作以後「ラビッド」「ザ・ブルード」「ザ・フライ」「クラッシュ」「イグジステンズ」「スパイダー/少年は蜘蛛にキスする」と、奇形と変容、イメジネーションと現実の裂け目を追い「マップ・トウ・ザ・スターズ」の、幻想的なまでの非情と残酷に収斂していきます。

 

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