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特集「異形の美術館」

2020年3月16日

特集「異形の美術館2」⑥ 
マニフェスト(下)(2019年 社会派映画)

監督 ユリアン・ローゼフェルト

出演 ケイト・ブランシェット

シネマ365日 No.3148

オリジナルなど存在しない 

特集「異形の美術館2」

二つ目に面白かったケイト・ブランシェットのパフォーマンスは人形師です。怪しげな製作室の壁に所狭し、とマペットがかかっている。歴史上の重要人物です。ヒトラーもいます。ケイトの人形師が手にしている操り人形は吹き出したくなるほどケイトそっくり。彼女は器用に人形の手足を動かし独白する。「人形を作るときは潜在意識が働く。潜在意識は心の中に湧くイメージの泉だ。それが観念となり、個性をつくる。意識下の心象から“個”が形成されるのだ。純粋な喜びを見出せると信じている。自己出発点を決め、妥当な道を選ばず全力で突き進んだ者だけが味わえる喜びだ。さらばだ、馬鹿げた選択、暗い奈落の底よ。限りない忍耐よ。さらば、季節の移り変わり、人工的な概念よ。すべてにとっての潮時よ。詩の世界で精進するべく尽力せよ」ここで取り上げられた芸術運動は「シュルレアリスム第一宣言」と「第二宣言」。20世紀最大の芸術運動と言っても差し支えないですが、操り人形を背景に語られるところが皮肉です。「私たちは論理の支配下にある」というのがアンドレ・ブルトンの主張でしたから、論理の操り人形であることをやめろ、さらば、さらば、と言っているわけね。でもこのマペット、精巧で可愛くて、こんな操り人形なら一体や二体、自分の部屋でペットにしておくのもいいなと思いました▼おしまいはケイトが小学校の先生になっています。欧米出身の映画監督たちのマニフェストが語られます。先生は試験を前にした生徒に「オリジナルとは存在しない。教材はどんなものからでも選んでいい。直感や想像力を刺激するものを探すのよ。映画は古い映画でも新しい映画でもいい。音楽や本や写真を選んでもいい。夢やとりとめのない会話、建築物、ビルや橋、樹木でもいい。雲の形、湖や海の形、光と影からも盗める。魂に訴えかけてくるものを探すのよ。そうすれば盗作だろうと作品は本物になる。本物になることが重要です。誰かの作品を盗んでも隠す必要ないわ。自慢したっていいのよ。でも覚えておいて。ジャン=リュック・ゴダールは言っている。問題はどこから盗んだかではなく、大事なのはその先にあるものだ」▼オリジナルなど存在しないと主張したのはデンマークのラース・フォン・トリアー監督。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」がありました。最後を飾るのはアメリカの建築家レベウス・ウッズのマニフェスト。「私はすべての象徴的存在に宣戦布告する。自分の不誠実さや恐怖を突きつけてくる過去にも。私は人生が一瞬であることを知っている。硬そうに見える物体が一瞬で空気に溶けることも。私は建築者。肉体を崇拝する官能主義者。メロディーであり夜空に浮かぶシルエットだ。互いの名前は知らないでいい。明日、私と共に都市の建築に乗り出そう」。よくわからないけど前向きな人ね。ケイトのコミカルな持ち味が教条的になりがちなマニフェストを退屈から救っています。本作は2019年3月ドイツ映画祭で上映されました。ユリアン・ローゼフェルト監督は1965年ミュンヘン生まれ。ベルリンと拠点とする映像作家、ビデオアーティスト。2011年からニュンヘン美術院デジタルメディア部教授として教鞭をとる。映像が静謐でナラティブ。どこかトッド・ヘインズ監督(「アイム・ノット・ゼア」「キャロル」)に通じる学究肌と叙情性があります。ケイトとはウマ合いでしょうね。

 

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