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特集「ザ・クラシックス」

2020年3月30日

特集「ザ・クラシックス8」⑥ 
鏡の中の女(1982年 家族映画)

監督 イングマル・ベルイマン

出演 リヴ・ウルマン

シネマ365日 No.3162

真実の自分? 

特集「ザ・クラシックス8」

ヒロイン、イェニー(リヴ・ウルマン)は新しい家に引っ越すまで2カ月、祖母と祖父の家に住む。祖母はやさしく迎え、子供の頃からそのままにしてある部屋に通す。イェニーは部屋を出るとき、元の自分の部屋をちらっと一瞥。嬉しそうでもなく懐かしそうでもない。これが伏線になります。彼女はストックホルムの総合病院の精神科医だ。夫は3カ月のシカゴ出張中、14歳の娘は夏季キャンプ。病院でマリアという患者を診ているが回復はおぼつかない。他の医師は治療不可能だと匙を投げている。強い抑圧がマリアの回復を妨げているとイェニーは思う。空き家になったイェニーの家にマリアが気を失っているという知らせを受け、イェニーは駆けつけるが、男が二人現れイェニーを襲うが「硬くて入らない」と言って出て行く。イェニーはトーマ(友人である産婦人科医)にこの時のことを「やってほしいという衝動に駆られた。私の体はこわばって硬く閉じて乾いていた」と話す▼ショックが大きくイェニーは自殺を図るが未遂。発見してくれたのはトーマだった。夫も娘も駆けつけるが二人とも、イェニーによそよそしいのだ。夫は会議の開催中だからと、そそくさと帰米し、娘は「ママは私が嫌いなのよ」と言ってさっさと病室を去る。二人は家庭生活の中でイェニーが「良き母、良き妻」を演じる偽善者だと思っている。ならば真実のイェニーはどんな女なのか。子供の頃両親は交通事故で死亡、祖父母に育てられた。祖母と母は父が「怠け者」だと言って嫌っていた。仲のいい夫婦ではなかった。祖母は厳しく礼儀作法を教え込んだ。押入れに閉じ込められた時の恐怖が今も残っている。だからイェニーが祖父母の家に帰って変わっていない自分の部屋を見た時は嫌な思い出しかなかったわけね。イェニーは夢の中で過去にさかのぼる。父と母が現れる。「子供だった私には何もわからなかった。でもパパとママは扉を閉じてしまった。良心が痛むの。いつも私は恥じているのよ。あなたたちを愛し、憎んでいる。パパとママをまた愛したいの」夢の中の父親は泣く。具体的な出来事は叙事されないので、両親との間に心の壁があったと思おう▼「私にも子供が産まれた。アンナは妙な泣き方をした。怒るとか空腹なのではなく、心底泣いているようだった」。夢から夢にイェニーの遍歴が続きます。正体不明の老女が無言でイェニーを監視するように何度か現れる。厳しかった祖母の幻影でしょうか。夢の遍歴は徐々にイェニーの深奥に入っていきます。「私はいつも自分の中心に佇んでいた。自己中心的な恐怖からそこを動けなかった。」夢の中で祖母が「許しておくれ。私が悪かった」と謝るのを聞いてイェニーはやっと安堵する。「私はお婆さまの愛する子。お婆さまのところはいつも静かで安全」こう言う繰り返しが長々と続き、夢から覚めようやく、「私は心の病を抱えて生きていくのでしょうね」とつぶやく。退院し祖母の家に帰った。「話してくれれば…」悩みを打ち明けてくれなかった孫に言う。「何にもないのよ」とイェニー。祖母の様子がおかしい。「お爺さまが軽い発作を起こし、もうダメな予感がするの」。イェニーはドア越しに「二人の老人を見ていた。二人だけの親密な関係だ。二人のゆるやかな動きは神秘的で恐ろしい点へと向かっていった。そこで二人は離れ離れになる。私はそこに人間の尊厳と本性を見た。愛がすべてを包み込んでいた。死さえも」。イェニーは電話を取りしっかりした口調で「明日7時に出勤する」と伝える。つまり抑圧から開放されたイェニーの職場復帰で映画は終わります。夫がいて(恋人もいて)医師の仕事があって、何一つ不足はないように見えるのですが、自分が外側を整えているだけで、真実の言葉を持っていない、娘にも夫にも心の奥を閉ざしているゆえ、どっちもが楽しくなれない。付き合っていたボーイフレンドからは不感症だと言われるし▼でもね、こんなことで自殺したくなるヒロインを作るのはベルイマンしかいないのでは。いい年をして、押入れに閉じ込められたことを恐怖するか。この映画、割と高評価なのだけどヒロインの告白を聞くうち(まだあるか)と思ってしまった。130分の長尺なのよ。トラウマに捉えられたヒロインに「真実の言葉? そんなこと考えるヒマがあれば頭カラッポになるまで仕事しろ!」と言ってやる誰かがいれば、130分もかからないわよ。仕事復帰によって心の傷を振り切るのは「仮面/ペルソナ」と同じね。ベルグソンは複雑な男性ね。その彼の「ああだ、こうだ」に、徹底的に付き合ったヴィル・ウルマンの激演に感服した。

 

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