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特集「ザ・クラシックス」

2020年3月31日

特集「ザ・クラシックス8」⑦ 
剃刀の刃(1948年 文芸映画)

監督 エドモンド・グールデング

出演 タイロン・パワー/ジーン・ティアニー/アン・バクスター

シネマ365日 No.3163

剃刀の刃を渡る 

特集「ザ・クラシックス8」

求道的な映画です。サマセット・モーム原作ですから、平易でわかり易いストーリーです。第一次大戦後間も無くシカゴで、モームは戦争中飛行士として参戦したラリー(タイロン・パワー)に会う。戦争の死と虚無の只中にいた彼は深い喪失感から立ち直れない。恋人イザベルとも別れ、パリに行き居場所を求めたがなすすべもなかった。イザベラは母と叔父エリオットを頼りパリに来た。叔父は潤沢な資産で上流社会に溶け込み、それが自慢でもあり、あちこちのパーティーに顔を出し有閑生活を送る。イザベルに再会し、結婚したら二人で正しい生き方を求め信仰に入ろうといい、女の激怒を買う。まず高額の収入を得る定職に就くことが、彼女にとって人生の意義だった。婚約解消。ラリーは人づてに聞いたヒマラヤの高僧の元に弟子入りする▼苦しむラリーに高僧が言うには…ここが説教的だと非難する人もいるのですが、かくも硬派な意見を堂々と開陳する映画も必要だと思うわ。キャンディーやクリームを舐めさせるだけが映画の役目じゃないわ。ラリー「勉強し本を読み漁っても満たされない。向上したいとは思うが世間でいう成功じゃない。仕事に喜びを見出そうとしても渇きは募るばかり。答えを見つけたら人と分かち合える。探す方法を知りたい」導師「君を悩ます渇きや混乱は全世界が抱えている。人が間違った方向に理想を見出す限りは。真の幸福は自分の内から生じるのだ。内なるものの平静や慈悲や寛容、憐れみや無欲の境地が永遠の平和を培う」「私には難しい」「救いの道を渡るのは剃刀の刃を渡るごとく難しい。多くの宗教家が示すように、人間は誰しも創造の息吹を宿し、死して神の元に戻る。天から降る雨が母なる海に帰するように」「ここに滞在しても?」「かまわんよ。生活は簡素だ。書を読みともに語り合おう。神の道は三つあると言われる。一つは深い信仰。一つは無償の善行。一つは認識による悟りへの到達。君は最後の道を選んだ。やがて知るだろう。いずれも同じ道だと」ラリーは頂上の小屋で自炊し独居する。「剃刀の刃」の意味もわかったし、本作の半分は言い尽くされたようなものよ▼導師は「必要なのは隠とんではなく世の中で生きることだ」これは「カラマゾフの兄弟」で、愛弟子アリョーシャに語るゾシマ長老の言葉そのものです。ハイレベルな真実を言っているのよ。バカにしてはいけないわ。教えを実行するためラリーはヒマラヤを後にする。そして10年。イザベルが結婚した銀行家のグレイは世界恐慌で破産し神経を病み、イザベルは二児を連れてパリの叔父の元に身を寄せていた。ラリーはイザベルと再会し、彼女の親友でもあり、ラリーの幼馴染だったソフィ(アン・バクスター)が身を持ち崩して安バーの酌婦となっているのに出会った。彼女は交通事故で夫と愛児を一度に失い絶望し、アルコール依存症となって身を沈めた。ラリーが彼女と結婚して救おうとする決心を知ると、イザベルは嫉妬に燃え上がる。彼女って猛烈な性格ブスなのよ。ラリーの愛に応えようと、禁酒を続けるソフィにまんまと酒を飲ませる。この手口がいやらしい。亡き子供を話題にし、盛んに同情してソフィの胸をかき乱し、辛いだろうけどもう少しの辛抱よ、とお為ごかしを言いわざと席をはずす。でもテーブルには酒とグラスを置きっぱなし…▼酒に手をつけたソフィは失踪しラリーは探し回るがツーロン港で惨殺された。エリオットは病死した。息をひきとる間際まで社交界復帰を夢見ていた骨の髄からのスノッブだ。ラリーはアメリカに帰国すると決める。イザベラはどうでたか。夫と離婚してあなたと結婚したい、愛するのはあなた一人…他人を踏み台にして自分の勝手ばかり押し付ける女なのである。ラリーは振り切って大西洋航路の貨物船の人夫となってアメリカへ。おわかりのように、モームの自伝「人間の絆」にかぶっていますが、同作の映画化「痴人の愛」のベティ・デイビスの迫力に比べたら、ちょっとばかり品が良すぎたけど、これはこれでよしとするわ。イケズ役のジーン・ティアニーも頑張ったし。アン・バクスターはアカデミー賞並びにゴールデングローブ賞助演女優賞受賞。アカデミー賞作品賞にも候補となった力作です。

 

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