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特集「ベストコレクション」

2020年4月15日

特集「スピカは昇る、初夏の星座のベストコレクション」⑥ 
カット/オフ(上)(2020年 サスペンス映画)

監督 クリスティアン・アルヴァルト

出演 モーリッツ・ブライプトロイ/ヤスナ・フリッツィー・バウアー

シネマ365日 No.3178

リンダ、解剖する 

特集「スピカは昇る、初夏の星座のベストコレクション」

ドイツ映画のサイコ・サスペンスには佳品が多いです。「ES[エス]」「ピエロがお前を嘲笑う」「フォー・ハンズ」「チェイス・ダウン 裏切りの銃弾」「誰でもない女」など。本作もその系列の一級品です。検死官ポール(モーリッツ・ブライブトロイ)が遺体解剖中、CTスキャンで頭蓋骨の中にカプセルを発見する。小さな紙片にハンナと彼の娘の名と電話番号がある。電話すると「パパ、助けて。パパが指示に従わないと私は殺される。エリックを待って。指示がある」。シーンが変わり漫画家のリンダ(ヤスナ・フリッツィー・バウアー)が荒波寄せる浜辺にいる。エリックという男の死体があり、ポケットのケータイが鳴る。出ると「エリック、望みを教えてくれ」とポールの声。「エリックは死んだ。ここはヘルゴラント島の浜辺よ。私はリンダ」。再びシーン一転。誘拐され監禁中のハンナに犯人が話しかけている。「女は純潔でなければ。ソマリア人の女は97%が割礼されている。お前の性器も切ってやろうか」。再びポールとリンダの会話。「私は検死官、リンダの父親だ。そっちへ向かう」「無理よ。嵐のせいで海難救助隊も出動できない」「なんとかする」「あなたスーパーマン?」▼ポールの指示で、島の病院の用務員エンダーが浜の遺体を運び解剖台に乗せる。ポールとリンダのケータイのやり取りが続く。「リンダ、君の仕事は?」「コミック描きよ」「手先が器用だってことか。解剖を頼めるか。手袋をはめてエプロンをつけろ。切断用のナイフを持て。メスはダメだ。刃が折れる。長めの鉗子がいる」「あなた正気?」「頼みごとをする権利はないが、君しか頼れない。犯人は二人殺している。早く対応しないと連続殺人は終わらない。私がガイド役になる」ヴェジタリアンでステーキも切ったことのないリンダは震え上がる。「遺体を袋から出せ。服を脱がせろ」「傷はない」「陰部はどうだ」「死ぬ前に漏らしている」「よくある。ハサミでズボンを切れ。脚を開いて肛門の状態を見ろ。鉗子を使って瞼をひっくり返せ。瞼の裏に出血があれば窒息死したことを示している」。こういうナビ解剖が、つるしたケータイのカメラから遺体を見るだけでできるのでしょうか…などという疑問は吹っ飛ぶリアルな処置。クリスティアン・アルヴァルト監督、剛腕です。「次は頭蓋骨だ。ゆっくり口を開いてくれ。入れ歯は取り出せ」「舌を切られている」「口の中に血はあるか。ない。死後に切っている。喉の奥を見てくれ」「黄色いプラスチックがある」「君が喉を切ってくれ」。リンダは放り出しかけるが踏みとどまる。彼女は24歳。暴力男の元カレを逃れて島に来た。ひどい男だった。くそ、あんな奴に負けてたまるか。決然と顔を上げ「死体を切るわ。ダニーのことを忘れられる」。「ナイフを顎の下に入れ皮膚の深くに押して胸骨までまっすぐ切開しろ。下顎に沿って左右に広げる。次は片手にナイフ、片方に鉗子。皮膚を引っ張り、水平に刃を入れ脂肪細胞を剥離する」「喉の奥に何かあるわ」「舌根だ。切れ。脂肪は刃で取り除く。次はナイフの先端を使う。喉頭を切って軟骨をつかみエビのように分離する」「黄色いプラスチックに女性の写真が。フリデリーケ・トーベンさん。島の居住者よ」彼女は「サンドラー事件」の裁判官。大論争を巻き起こし早期退職し現在はベルゴラントに住む。サンドラー事件とは。ここで娘を殺された二人の父親が揃います。簡単に言えば本作は二人の父親の復讐と一人の父親の救出劇です。父親の名はイェンスとシュウィントウスキー。二人とも娘が生きがいだった…本作のナビ解剖のシーンは、事件解明のキモというだけではありません。解剖とは、例えばドキュメント「人体解剖マニュアル」はリアルな解剖を映し出し、肉体の閉じられた世界を露出させた傑作でした。各器官の連結が果たす最高の機能、解体される肉体の秘密、人体に備わる完成したアルゴリズムの美しさ。本作においては、モーリッツ・ブライブトロイという名優の語りによる、劇中劇のような臨場感を構成しています。それにつけてもリンダって、いいやつですね。

 

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