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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2020年4月21日

特集「美しい虚無11」② 
女の復讐(1991年 サスペンス映画)

監督 ジャック・ドワイヨン

出演 イザベル・ユペール/ベアトリス・ダル

シネマ365日 No.3184

ドワイヨンの不条理劇 

特集「美しい虚無11」

1年前、夫アンドレが交通事故で死んだ。妻セシル(イザベル・ユペール)は夫の愛人だったスージー(ベアトリス・ダル)がパリに来ていることを知って、深夜の2時にホテルに訪ねる。スージーはノックの音が聞こえてドアを開けたが誰もいない。ベッドに戻ろうとしてふと気を取り直し、もう一度ドアを開けるとセシルが立っていた。「引き寄せられたというか、交信していたから再会できると信じていた」とセシル。「あなたを好きだったけど住所も知らない。男たちは幸せね。前よりきれいよ」「何があったの」「わからない? 夫が死んだのよ。あなたを探したわ。そばにいて欲しかった。なぜ私と別れたの?」さっぱり脈絡のない会話が続きます。妻と夫と愛人は仲良く付き合っていたらしい。でもスージーがある日居所も教えず消えた。その後夫は事故死したが、妻は霊感というか、交信というか、に導かれスージーのホテルに引き寄せられた▼セシルは異常にスージーに執着する。スージーもスージーで「彼はまだ私の中にいる。もう妻を怖がることもなく堂々と彼を想っていく」…夫と愛人の霊にとりつかれている女二人が主人公の映画です。ジャック・ドワイヨン監督の作品といえば「矛盾・猜疑・幽霊」が主たるテーマであることが多い。「ラ・ピラート」は人妻を略奪しに来た女性の恋人の逃避行。「ポネット」は死んだ母親が娘の前に現れわずかな時間を一緒に過ごす。本作のセシルは完全に情緒不安定で、スージーは「一人にしておけない」と心配のあまりそばについているが、彼女の言動に腹を立て、ホテルを出てはまた戻り、セシルの新しい愛人ステファンと関係を持つが、それで心が満たされるわけではない。パリを去ると決める。友情があるような、ないような、ややこしい女二人の関係で、わかっていることはただ一つ、この女性たちには充実した現在がない。そこが幽霊の、いや監督の付け目なのだ▼ベアトリス・ダルは秀逸でした。オープニングで路地の奥から姿を表す。半身に光が、半身が影になっています。そのシーンだけで人生に何の当てもない、物憂げで投げやりな女だとわからせる。セシルはスージーを憎んだのか必要だったのか、判然と識別できない感情でわざわざ再会し、彼女への執念を絡みつかせる。当事者のスージーさえ、セシルの真意が計り兼ね、疲れ切ってしまい自分の胸を撃ち抜く。まして彼女らのセリフが何を意図しているのか、うろたえるのは、私の物分かりの悪さだけか。そういや「ラ・ピラート」のヒロインも流れ弾に当たって死んじゃう。本作でも、社会で場を持って生きていくのが難しい女たちが、一人は妄執の中で、一人は同じ穴のムジナになって死んでしまう。夫や愛人に死なれたって立ち直る女はいくらでもいる。本作にしつこく張り巡らされた、立ち直りを許さない心理的な設定は、ひとえに女たちの磨り減ってしまった心の心棒を思わせてやりきれない。原作はドストエフスキーの「永遠の夫」ですが、ドワイヨン監督は自作の不条理劇として再構成に成功しています。

 

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