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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2020年4月24日

特集「美しい虚無11」⑤ 
恋する予感(1996年 恋愛映画)

監督 マイク・ニューウェル

出演 アラン・リックマン/ヒュー・グラント/ジョージナ・ケイツ

シネマ365日 No.3187

母親の声 

特集「美しい虚無11」

ヒロイン、ステラ(ジョージナ・ケイツ)は16歳。劇団の研究生。舞台監督メレディス(ヒュー・グラント)に恋する女の子です。ヒュー様はゲイで、若い男の子を誘惑し、自分に惚れさせたあと、残酷に捨てるという性悪男。リハーサル中にもかかわらず頭の中は愛人の男のことでいっぱい。傲慢でエゴイストで、こんな男のどこがいいのだろうと思えるやつに恋するステラ。不安定な16歳と言う年齢では無理ないかもしれませんが、かなり退屈なキャラとして登場します。「宝島」のフック船長役が怪我をして穴があいた。急遽呼び寄せられたのがオハラ(アラン・リックマン)。訳ありのミステリアスな男として、オートバイに乗ってやってきます。かつての名優ですが、復帰して彼が最初にしたことはステラを口説くこと。「経験することが大切よ」とかねがね自分に言い聞かせていた彼女は、にげだしもせず騒ぎもせず、初体験をオハラとやり終えますが、ことの最中にオハラが呼んだ名は「ステラ・マリス」。この女性がオハラの過去を縛っています。劇団仲間の説によれば「彼がヤリ逃げした地元の女性」▼母親がステラを残したまま去ったあと、叔父叔母が面倒を見てきた。最近ステラの帰宅が遅い。眠っているふりをしている叔父に初体験を独り言で告げるステラ。叔父はメレディスを訪ね「ステラは感受性の強い子です。性交渉を持つのは早い」心配を打ち明ける。彼は姪の相手がメレディスだと思っていたのだ。オハラは劇団員のジェフリーの態度が荒れているのを見てメレディスに詰め寄る。「彼に手を出すな。昔のように遊ぶ気か。あの時の男は自殺したぜ」。メレディスは言い返す。「未成年者との性交渉は犯罪だぞ」。本作の男たちはみな脛に傷があります。怪我をしたステラの叔父を見舞いに来たオハラは「母親は?」と訊く。「私たちも彼女の居所を知らない。ひどい話かもしれないが、私たちは母親のルネを追い出したのです」と叔父夫婦は告白。オハラは驚く。ステラは毎晩、公衆電話から母親に電話していたからだ。「男出入りが激しく、ステラが生まれて家に戻ったが部屋を借り芸人と同棲した。彼女の仕事は郵便局の電話交換手で時報を担当し“黄金の声の女”と呼ばれるほど評判がよかった。彼女がめかして外出した後、ステラを見に行くと地下室に一人で寝ていました。枕元にろうそくの灯。まだ赤ん坊ですよ」。叔父がルネの写真を見せた。それがステラ・マリスだった。オハラは呻く。ステラはマリスの娘だった▼オハラはリヴァプール港に走り絶叫する。足を踏み外し海に落ち溺死した。フック船長の代役はメレディスが務めた。オハラの死を知ったステラは悲しみに沈む。そしていつもの通り、公衆電話から母親に問いかける。「母さん? 今日は大変だったのよ。男に誘われたの…私は悪くないわ」受話器の向こうから声が聞こえた。「ただいまより104720秒をおしらせします」「母さん、私はまだ勉強中よ。靴紐を直しているところなの。曲がり角を曲がったら、誰か待っているかも」「ただいまより10時…」ステラは時報を告げる母親の声に話しかけていたのだ。アルコール依存症でクビになる女優、メレディスに弄ばれ命を絶った青年、捨てた女への悔恨から立ち直れなかったオハラ。ゆがんだ運命の中で生きている男と女。それに輪をかけるように、ラストに至って監督はステラという若い女性に人生の深い虚無を与えています。時報を告げる母の声に答えはない。虚しくてはかなくて、哀しいまでのラストですが、時報の声に母の実在を感じるステラが、なぜか強く見える。「母さん、経験って大切でしょ」「母さん、私、メレディスに恋する予感があるわ」。彼女にとって母親は行方不明でも不在でもなく、心の中にしっかりいる相手なのだ。それでいいのよ。安んじる場所さえあれば、孤独が心を蝕むことはできない。ステラはやがてオハラの死を大人の女性として悼み、メレディスの酷薄さにも、正しく対応するだろう。「恋する予感」なんて邦題、救いのない暗い内容とは裏腹の、チャラなタイトルと思ったけど、案外深いところをついていたのかも。

 

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