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特集「煌びやかな墓場」

2020年5月9日

特集「煌びやかな墓場」① 
嘆きの王冠 ホロウ・クラウン リチャード2世(2017年 事実に基づく映画)

監督 ルパート・グールド

出演 ベン・ウィショー/ロリー・キニア

シネマ365日 No.3201

黄金の冠は深い井戸のようだ 

特集「煌びやかな墓場」

オープニング。「墓場の話をしよう。蛆虫や墓碑銘について語り大地に悲しみを刻むのだ。大地に腰を下ろし王たちの悲しき末路を語ろう。退位に追い込まれた王、戦場で惨殺された王、先王の亡霊に取り付かれた王、妃に毒殺された王、寝込みを襲われた王。みな殺された」。原作がシェイクスピアであり、彼は舞台上演のために書いたのですから、セリフひとつひとつが磨き上げられている。ロンドンの劇場は、女王陛下も来臨したとはいえ、エアコンなし、マイクなし、板の舞台ポッキリ、庶民の客席は平土間だった。それなりの舞台衣装・化粧は整えただろうが、客の入りを決めるのは何と言っても役者の語るセリフだった。感動に打ち震え、劇場に押しかけてもらうには、胸にズシッとくるセリフを連発させ、金縛りにさせねばならぬ。つまり最高の販促としてシェイクスピアの言葉力が機能しました▼リチャード2世は王としては…どうだろう。いつもペットの猿を傍らに座らせ、臣下の必死の訴えの時も物静かに猿に餌をかじらせる。アイルランド攻撃の費用を捻出するのは重税と財産没収。愛想を尽かされるのは時間の問題で、追放した貴族・従兄のヘンリー(ロリー・キニア)は父の遺産の正当な相続権を主張してイングランドに戻る。これがリチャード破滅の原因になります。リチャードはヘンリーが気に入らぬ。「彼も王族だ。だが平民に擦り寄りすぎる。彼らの心に飛び込み、親しげに接する。奴隷みたいな連中に敬意を払い、牡蠣売りの女にも挨拶する。荷車ひきに声をかけられると礼儀正しく“友よ”と声をかけ、まるで未来の英国王気取りだ」。リチャードもそうしておけばよかったのですけどね。王は王冠に群がる無数のご機嫌取りのいいなりだと貴族・閣僚の批判が高じる。王がアイルランド遠征でロンドンを留守にしているうちに、ヘンリーは人心を掌握した▼「お前たちが貴公子を一変させた。お前たちが王と王妃の絆を奪い、王妃の美しい頬はひとり寝の涙で汚された」そして王のゲイパートナー二人は打ち首。貴族たちは連合し王に退位を迫った。「望むなら喜んで譲る」と王。思うにリチャードという王様、王位とか政治とか権力に全然向かなかったのです。王冠をヘンリーに戴かせるときこう言います。「さあ、従兄よ、受け取れ。この黄金の冠は深い井戸のようだ。交互に二つの桶を満たす。空の方は高く宙に舞い、もう一方は暗く沈んで水を満たす。私の桶は涙で満たされ、代わりにお前たちが高みに上った」鏡を見て「これが宮殿で1万人もの臣下を従えていた顔か。太陽のように輝いた男か。数々の愚行を重ねヘンリーに潰された顔か」ヘンリーが訊く「頼みは」「お前が見えぬ場所へ行かせてくれ」そこはロンドン塔。劇場の観客たちは最高の人気役者(リチャード2世)が引っ込むと、かつての主役に侮蔑の目を向けた。地下牢の王は謀反の疑いありとされ暗殺された▼ベン・ウィショーの、きらびやかにして悲劇の絶対君主が素晴らしい。玉座に座るリチャードは美々しく、たおやかで、いかなる英君もここまでというオーラを放つ。声は低く、でもよく通った。イケメンのリチャードに比べ無骨なヘンリーは、王を見あげるのも眩しく(ははっ)ひざまずく。ヘンリー役のロリー・キニアはロイヤル・ナショナル・カンパニー所属、映画「スカイフォール」、テレビ「ナイトメア〜血塗られた秘密〜」のレギュラー。後者では最終章のラストシーン、ヒロインの墓に捧げる詩の暗誦わずか2、3分に、シェイクスピア役者の面目を発揮した逸材です。

 

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