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特集「煌びやかな墓場」

2020年5月10日

特集「煌びやかな墓場」② 
嘆きの王冠 ホロウ・クラウン ヘンリー4世 1・2部(2017年 事実に基づく映画)

監督 リチャード・エアー

出演 ジェレミー・アイアンズ/トム・ヒドルストン/サイモン・ラッセル・ビール

シネマ365日 No.3202

統治者の半身像 

特集「煌びやかな墓場」

「ヘンリー4世」とはいうものの、実質的に息子のハル王子(トム・ヒドルストン)と、シェイクスピアが作り出した架空の人物フォルスタッフ(サイモン・ラッセル・ビール)が主役。ヘンリー4世(ジェレミー・アイアンズ)は32歳で即位。46歳で没するまでの治世は内乱に次ぐ内乱に苦しんだ。跡取りの王子は放蕩三昧ときて気鬱が高じる。王子曰く「俺が堕落した生活をやめ、王の責務を引き受ければ期待されていなかったぶん、人々の予想を裏切り喜ばれるだろう。くすんだ金属に光る黄金だ。俺の改心はそれまでの乱れた生活を背景にひときわ輝く。今の非行は引き立て役。だから不良を気取る。意表をついて一気に挽回する」と計算づくの放蕩なのです▼王子の悪友フォルスタッフは初老のメタボで大酒呑み、女たらしで借金は踏み倒す、その場逃れの嘘とホラばかりつく。ふてぶてしい鉄面皮だが、宮殿の格式と儀礼に縛られる王子には違う世界の魅力を与えたのかも。しかしながら、内乱にヘンリー4世直々出陣、と聞いて王子は宮廷に馳せ参じる。武勲をたて王の信頼を得るが、悪友たちとの腐れ縁はそのまま、居酒屋の入り浸りはやまない。放蕩王子のエピソードとフォルスタッフの毒々しさがくどくどと長い。シェイクスピアの劇にはよく、例えば「オセロ」のイアゴーみたいに、悪の結晶が登場します。作家としては正義のスーパー・ヒーローより、よほど書きたい人物には違いないと思います。フォルスタッフは女に金を貢がせ、上司を丸め込む名人ではあるが、汚くて臭いそうだし、近づかれただけでも怖気を振るわせる風体だ。王子が面白がって、いつまで口先男を重宝するのか、しまいにこのおじさんが顔を出すだけで、映画は退屈になった。演じるサイモン・ラッセル・ビールは、ジェレミー・アイアンズやトムヒに遜色ない舞台のベテランです。(映画では「オルランド」「理想の結婚」「ターザン:REBORN」など)ヘンリー4世倒れる! 王子は駆けつけ関係者を下がらせ父王の枕辺に付き添う。王「これが最後の助言だ。私の物語は反対勢力と戦うことがテーマとなった。私が力で取ったものがお前の手に入る。正統な後継者ゆえ、王位は揺るがないが油断はできない。私の味方を全て抱き込むのだ。彼らの牙と針は抜いてきた。確かに彼らは私を王にしたが同時に私は恐れを抱いてきた。廃位を迫られぬかと。反抗的な連中は海外遠征に送れ。国外に注意をそらせば過去の恨みは消える。この王冠をいただくお前に平和がありますように」。王子は責任の重さがプレッシャーで、放蕩に逃げていた面もある。しかし盾となってくれていた父王亡き後、それこそ彼が望んだ華麗なる「彗星のようなデビュー」を飾らねばならぬ。トムヒのノーブルな容姿が王位継承者にぴったり合っていまして、長いローブの裾を引き、王位王冠王笏を持って貴族閣僚の前をしずしずと進む姿は神々しいばかり。列席者を押し分け、押し分け、現れたのがフォルスタッフです。俺を忘れてはいまい、それなりに引き立ててくれというのですが、王(今はヘンリー5世)は氷のような一瞥を投げ、逮捕させる▼シェイクスピアの狡猾さは、無意味・冗長に思えた彼という人物が、実は父王の諭しを体現する裏主役として機能していることを教えます。父王の遺言を一言で言えば「味方に抱き込む」ことでした。つまり敵を作らぬこと。命を奪う連中ばかりだから、しょうもないことで争う前に我が方に抱え込む。金も使い、結婚もさせ、領地を与え、爵位も気前よく公平に。戦費で国が疲弊することを考えたら知恵はいくら使ってもタダだ。そういえば、フォルスタッフという天性のヌエみたいな男がいたではないか。トップは悪を熟知しておかねばならぬ。人間はいい加減で嘘つきで、忠義ヅラして平気で裏切る連中だと知っておかねばならぬ。シェイクスピアはスマートな英雄譚に興味も関心もない。反モラル、反社会の権化である逸脱男フォルスタッフを、統治者が併せ持たねばならぬ半身像として浮かび上がらせています。

 

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