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特集「煌びやかな墓場」

2020年5月15日

特集「煌びやかな墓場」⑦ 
嘆きの王冠 ホロウ・クラウン リチャード3世(2017年 事実に基づく映画)

監督 ドミニク・クック

出演 ベネディクト・カンバーバッチ/ジュディ・デンチ/ソフィー・オコネドー/キーリー・ホーズ

シネマ365日 No.3205

3人の未亡人 

特集「煌びやかな墓場」

密かに悪事を企て、罪を人になすりつける所業で王冠を手に入れたリチャード3世(ベネディクト・カンバーバッチ)。しかし彼の心は安んじない。悪夢にうなされ、冷たい汗をかき、不安を追い払うため次の企みに着手する。企みとは、王家の血筋にあって、王位継承権のある男を殺していくことだ。「不恰好に歪んだ体。出来損ないのままこの世に送り出されてきた俺。俺がぎこちなく歩くだけで犬でさえ吠えかかる。そんな俺は軟弱な平和な世界では暇つぶしの楽しみもない。女に愛されることはない。口先ばかりの虚飾の世界だ。俺は悪党になると心に決めた。この世のあらゆる楽しみを呪ってやる」早い話、リチャード3世とは、コンプレックスが凝縮したサイコ男なのです。ところが、いつまであの「背中の曲がった悪党」を生かしておくのだ、私たちには武器も軍もない、ならば呪い殺してやろうと決心した女たちが登場した▼これはリチャードにとって盲点だった。彼にとって女は所詮踏み台、あちこちの男に押し付け、我が身を有利に運ぶ道具としか考えていませんし、(女は浅はか、女は愚か、棄てるだけ)というセリフを何度も口にしています。だからこの三人についてはなんの警戒もなく、リチャードには珍しく殺しの対象にしていません。時間も手間もかける値打ちすらないってところだったのでしょう。三人とは実母エリザベス(ジュディ・デンチ)、前々王ヘンリー6世の妻マーガレット(ソフィー・オコネドー)、前王エドワード4世の妻エリザベス(キーリー・ホーズ)。同じ名前やよく似た名前ばかりでややこしいですね。マーガレットは夫と息子を殺された。母エリザベスは息子クラレンス(リチャードの兄)と孫二人を殺された。王妃エリザベスは息子二人、自分の兄弟二人を殺された。急逝した夫エドワード4世も多分リチャードの毒殺だろう。母エリザベスは夫ヨークをマーガレットに殺されていたが、ここはひとまず恨みを水に流そう…復讐に飢えた未亡人3人は手を組んだ▼王位継承者の一人であるリッチモンド伯がフランスで蜂起しイギリス西海岸に上陸した。リチャードは迎撃を命じ自ら先頭に立ちボズワースに進軍する。途中道に立ちふさがった女3人に行き会う。(これは、これは)と軽くいなそうとしたが、彼女らは退かず、我らの呪いを受けよと託宣のごとく投げつける。決戦前夜、リチャードは夢にうなされる。ヘンリー6世、兄クラレンス、腹心だったバッキンガムが亡霊となって現れた。ついでアンが。「リチャード、私よ、アンよ。あなたの妻。あなたは戦場で私を思い出し、絶望して死ぬわ」。亡霊たちは口々に「死の夢を見ろ。悪夢の中で倒れろ。絶望に息耐えろ」。ガバッと跳ね起きたリチャード。脂汗を流しながら強気にせせら笑い「俺には慈悲というものがないのだ」。慈悲もなかったが運もなかった。リチャードはボズワースの戦いで戦死します。彼の死によってヨーク朝は終焉。新たにリッチモンド伯がヘンリー7世として即位。薔薇戦争に終止符を打ちました▼見応えのある最終章ですが、最凶の王だったリチャードの影が、次第に薄くなっていくのが否めない。容貌が醜怪ゆえ、世間とも他人とも相容れぬ運命だと彼は自らに下した。疑いでしか人を見られない世界観はいつの間にか彼を弱々しい男にしてしまう。金で動く暗殺者に「仕事」の指示を出すだけ、周りに信頼する部下はおらず、身内の男は殺してしまった。彼を王にした最大の功績者バッキンガムも愛想を尽かして離反し処刑された。愛と平和の世界に背を向け、生まれながらの悪人と自負したものの、それこそ虚飾だった。人間には人間が人間として生きるフィールドがある。それに背いた者は「呪い殺す」手段に出た3人の未亡人は、神の手のひらの裏側だったかもしれない。

 

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