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特集「神も仏もない映画」

2020年5月16日

特集「神も仏もない映画4」① 
菊とギロチン(2018年 事実に基づく映画)

監督 瀬々敬久

出演 木竜麻生/韓英恵/東出昌大/筧一郎/渋川清彦

シネマ365日 No.3206

世の中を変える女 

特集「神も仏もない映画4」

見るのにしんどい映画でした。189分の長尺。それもある。でも女相撲の力士たちが抱えている辛さやジレンマが、水脈で現代と繋がっている切なさがやりきれない。ギロチン社とは実在したアナキスト集団。彼らの志は高かったはずなのですが、金持ちから巻き上げた運営資金は酒と女に消えていたというのが事実らしい。冒頭のナレーションはこうだ。「女相撲の発祥は古く18世紀半ば。興行は1960年代まで地方を中心に隆盛を極めていた事実は、あまり知られていない。大正時代は30人以上の力士を持つ大興行一座をはじめ、20数個の団体があった。力士のほとんどは山形に生まれ全国を巡業していたとされる」。農村に嫁ぎ夫DVから逃げてきた花菊(木竜麻生)が玉岩興行の一座に加わった。力士たちは訳あり女ばかり。親方(渋川清彦)は彼女らを受け入れ、勧進元と話をつけ、警察とも交渉する。時代は関東大震災直後。都会には不穏な空気、一座が巡業する地方は飢饉によって疲弊していた▼ギロチン社のリーダー、中濱鐡(東出昌大)と古田大二朗(筧一朗)は巡業に来た女相撲一座を見に来た。古田は「自分の力で強くなりたい」と願う花菊に、中濱は震災後の過酷な状況を生き延びた十勝川(韓英恵)に「貧乏人も金持ちもいない、人々が自由な国を満州に作りたい」と熱を込めて語るが、時代はまだ出口を用意していなかった。古田と中濱は死刑。花菊は夫に連れ戻されるが、古田が追いすがり、非力な彼はボコボコにやられるものの、ふところの爆弾を投げて夫を黒焦げにし、花菊を一座に戻してやる。朝鮮を故郷に持つ十勝川を自警団が連行、瀕死の拷問にかける。中濱は無謀にもツルハシを持って現場に殴り込むが取り押さえられ銃殺寸前、十勝川が声を振り絞り「天皇陛下万歳」を唱え一同を凝固させ助ける▼女たちが受けてきた差別と搾取、中濱がブチあげる満州国の夢、レイプされて死んだ女力士の身体が硬直し樽の棺桶に入らない。親方はボキボキ骨を折って詰め込む。風紀取り締まりを叫び、強引に興行を中止させようとする官兵、見ているうちにウツ状態に落ち込むようなおぞましいエピソードが、妙な迫力を持って続く。この執念に疲れる、いや吸引される。女相撲と言っても見に来る方は見世物感覚だ。しかし少なくとも三度三度の飯にありつけ、屋根の下の布団で眠り、仲間同士で笑いあう時間も持てた。年齢とともに相撲はリタイアしなければならぬ。故郷へ戻って何をするのだろう。一日一日をしのいでいく彼女らの背中に、切なさが張り付いている。劇中花菊はこんなセリフを吐く。「強くなりてえ。強くなれば貧乏なやつも金持ちになれるかも。体の弱いやつも死なずにすむかも。今まで諦めていたことが諦めないですむかもしれねえ。女が男と同じくらい強くなるとはそういうことだ。弱いやつは世の中を変えられねえ」。世の中は変わったか、などという問いかけは所詮他人任せの問いかけだ。女たちは変わったかと問うてみるといい。一人一人が答えを持っているはずだ。差別や蔑視への告発にとどまらず、「世の中を変える女」になりたいとヒロインに言わせたところにこの映画の力と新しさがある。

 

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