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特集「ナンセンスは素敵だ」

2020年5月21日

特集「ナンセンスは素敵だ6」① 
江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間(上)(1969年 ホラー映画)

監督 石井輝男

出演 吉田輝雄/由美てる子/土方巽/小池朝雄/大木実

シネマ365日 No.3211

夜の夢こそまこと 

特集「ナンセンスは素敵だ6」

桜井市から伊勢神宮へ続く初瀬街道が名張市を通り、旧市街の狭い路地を入ったところに江戸川乱歩生家跡があります。大正・昭和の面影が残る一画です。碑には「江戸川乱歩生誕地」とあり、表には乱歩の自筆で「幻影城」、裏には「うつし世はゆめ よるのゆめこそまこと」と乱歩の言葉が刻まれています。本作はもろダークファンタジーの世界ですが、認められ始めたのは公開後10年以上たってから、アメリカ映画で「カルト映画」という作風が上げ潮になって、本作にスポットが当たりました。石井輝男監督はもともと江戸川乱歩のファンでした。「網走番外地」で大ヒットを飛ばしましたが、その根元には彼のマイノリティへの偏愛が乱歩のそれとベクトルがあっていたことがあります。高い映画技術によって評価されながら、映画賞とは無縁の立場で地位を築き上げた監督。整合性や統一性を嫌い、アナーキーに逸脱せずにはいられない、自分の志向を貫いた男▼奇形、変態、倒錯、近親相姦がドヤドヤと描出されるシーンはグロテスクかつエロティックで、人間の本能をかき乱す刺激と快感が潜んでいます。「アポロンの地獄」や「テオレマ」のパゾリーニ監督に共通する感触があります。出演者も前衛そのものでした。能登半島にロケを敢行し、波高い北陸の断崖に跳梁する土方巽の登場は、白塗りの顔、長髪の黒髪、痩身に白装束、彼がシャープな容貌でアップになると、アンチ・クライストもここまで。ゾクゾクする異形のスターです。彼の率いる暗黒舞踏塾のメンバーが崖の頂から横に並んで頭、首、上半身、全身と表して前進してくる。彼らが奇形人間を演じるのですが、土方は体型の歪みを排し、毒々しい白塗りのペインティングに半裸の肉体で勝負します。本作は「乱歩全集」と銘打ったように、乱歩の代表作が網羅されています▼メーンとなる「パノラマ島奇談」のほか、「人間椅子」「屋根裏の散歩者」「陰獣」「孤島の鬼」など、どこかで見覚え(読み覚え)のあるエピソードが繰り出されます。乱歩はもともときっちりしたプロセスを作るのは苦手な作家でした。人気作家ですから何本も連載を抱え、書き継いでいるうちに収拾がつかなくなることもあり、そんな時は休筆して旅に出る。そのせいではないでしょうが、本作にも(なんでこうなる?)不思議な展開は多々ありますが、そこを救うのが名探偵明智小五郎。ラジオから流れた「ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団」の歌声にのって一世風靡したヒーロー。ちょっと横道に逸れますが「少年探偵団」と怪人二十面相」は本格推理物に行き詰まり、自分の書くものは低俗だと落ち込んでいた乱歩が、思い切りダークヒーローと、その対極のスーパーヒーローに分身して作り出した、本格に対する変格推理小説でした。彼は変格物によって息を吹き返します。彼が思い描いた「夜の夢」こそが、大衆の密かに望む隠れた願望と欲望でした。

 

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