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特集「ベストコレクション」

2020年6月9日

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」① 
真実(上)(2019年 家族映画)

監督 是枝裕和

出演 カトリーヌ・ドヌーブ/ジュリエット・ビノシュ/イーサン・ホーク

シネマ365日 No.3230

寂しそうに見えた女 

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」① 真実(上)(2019年 家族映画)

暴君のような大女優ファビエンヌがカトリーヌ・ドヌーブ。幼児期からずっと、母親にかまわれなかった思い出が怨念になっている娘リュミエールにジュリエット・ビノシュ。冒頭から母娘が針を含んだ言葉でやりとりする。娘リュミエールは母の自伝「真実」の出版祝いにニューヨークから夫ハンク(イーサン・ホーク)と娘シャルロットを連れてパリに帰郷した。脚本家だ。母がセザール賞二度の女優で娘が脚本家という設定からして、ジュリエット・ビノシュが例によって地味目だ。広い庭から母屋に入ってくる娘一家。「お城みたいな家だね」とシャルロット。「裏は刑務所だけど」と返す母。家の中が散らかっている。「メイドが先月辞めちゃったのよ」と夫に訳を言う妻。「なんで?」「たぶん、いい人だったからよ」。ファビエンヌが姿を現した。「空港で自伝のポスター、見たわ。あの写真、何年前の?」とチクリ。「出版社が勝手に使ったのよ」意に介さぬ母。「ゲラを見せるって言ったでしょ」「私が? 忘れてた」「見せたくないのでしょ」「いやねえ。何を言い出すの。あなた、昔から疑り深いから」▼「真実」を一読してリュミエンヌは憤慨する。「でたらめじゃないの“校門でリュミエールを待つ時間が何より楽しみだった。誰よりも先に走ってきて手をつなぎ、学校の話をしてくれた”こんなこと一度もなかった」娘が突き出した本をジロッ。「付箋なんか貼っちゃって。私、女優なのよ。ホントの話なんかしたくない。事実なんて面白くないわよ」「何でサラのことは一行もないの」サラとは是枝監督が使う不在のヒロイン。出演しませんが母娘の溝を象徴する女性です。「後ろめたいのでしょ!」「サラに?」「わかっているくせに」「面倒な子ねえ。真面目すぎるのよ。誰に似たのかしら」後で秘書のリュックが「お母様は40年間サラを常に意識していました。今撮影中の『母の記憶に』出演するのも主役がサラの再来と言われる新進女優、マノン・ルノワールだからです」そのマノンについては「似ている? サラに? 全然。サラはもっと自由で動物的だった。あんな小娘と比べられたらサラが迷惑よ」▼40年勤めたリュックが辞めるという。理由「あの本に私は一度も出てこなかった。存在を否定された気分です」。女優とはなんでも自分の都合のいいように書き換え、解釈する、あるいは無視して心の安定を保つジコチュー女、というのがファビエンヌです。娘婿ハンクはテレビが主の役者だが「あなたの演技はモノマネよ。ピエール(カメ)の方がうまい。大切なのは役者の個性なの。存在感よ」一刀両断。リュミエールが割って入り「ママのエレーヌ(ファビエンヌが一番気にいっている役)だけど、サラに決まっていたのにママが取ったじゃない。監督と寝て。ママが横取りしなければサラがセザール賞を取っていたわ」。やってきた実の父ピエール(カメに同じ名前をつけている)は「お前は芝居でサラに勝てないものだから私生活でゆすぶった」ファビエンヌ包囲網に娘参戦。「あの日、ママも一緒に海に行けばサラは死ななかった」「あれは事故よ。酔っ払って一人で海に入って溺れたのよ。仮に私が役を奪ったとしても実力がなければ消えているわ。サラが本物の役者なら悲しみを芝居にぶつけたはずよ」「誰もママみたいに強くない。私はサラのやさしさが大好きだった。私が学校の劇に出た時も見に来てくれた。失恋した時は励ましてくれた」「残念ね。サラの娘じゃなくて」「本当にそう。私はママを許さないわ!」「何様のつもり? サラでもないのに。あなたが許さなくてもファンはひどい母親でひどい友だちの私を許してくれる。役者の気持ちなんてあなたにはわからないでしょうけど。どこ行くの? 帰るの? ニューヨークへ」「トイレよ」(プーッ)▼娘婿のハンクはしがないテレビ役者だ。主役になるまで酒を飲まないと妻と誓ったはずがファビエンヌに籠絡。ワインを酌み交わす。「よくあんな女と一緒に居られるわね。えらいわ。そのエネルギーを芝居に注ぎなさい。日常なんかどうでもいいの。チャリティーや政治に口を出す女優は女優という仕事に負けたのよ。スクリーンの戦いに負けた人が現実に逃げ込むの。私はその戦いに勝ってきた。だから寂しくなんか、ない」。妻が後から訊く「何を喋っていたの。2時間も」「お義母さん、寂しそうに見えたけどね。何で俺を連れてきた。お義母さんを嫉妬させたかったのだろ。幸せな家族を見せつけて。でもそれじゃ勝てないよ。俺みたいな半端なテレビ役者じゃ」。ファビエンヌを一番理解したのは、ハンクかもしれません。初めて目の当たりにした“大女優”。こゆるぎもしないくせに「寂しそうに見えた」女。ファビエンヌの実像を傍観者の位置から見抜いたイーサン・ホークが出色でした。

 

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