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特集「ベストコレクション」

2020年6月10日

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」② 
真実(下)(2019年 家族映画)

監督 是枝裕和

出演 カトリーヌ・ドヌーブ/ジュリエット・ビノシュ/イーサン・ホーク

シネマ365日 No.3231

詩がなくちゃダメよ 

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」① 真実(上)(2019年 家族映画)

秘書のリュックが辞めた穴埋めを娘のリュミエールがする羽目になった。辞任の挨拶に来たリュックにこぼす。「セリフは覚えていない、主役女優に嫌がらせはするし、間は外す。あなたが40年も甘やかしてきたからよ」「お母様は若い頃、サラよりずっと輝いていました」「私はサラ派だったけど」「でもお母様のセリフをいつも真似していました」。ファビエンヌはしかし女優としての自信を失いつつあった。酒とタバコで胃をやられ薬が離せない。「もうだめ。お芝居ができないわ」珍しく娘に弱音を吐く。「時々見えるの、サラが。以前なら“私ならもっとうまくできる”と言われている気がした」「今は?」「見られているといい芝居ができるわ」。撮影は無事終了した▼ファビエンヌが娘に打ち明けている。「劇の発表会の日、私もいたのよ。私に見られたら嫌だろうと思ったし、感想を聞かれても困るし」「どうだった」「下手だった。アレ(「ヴァンセンヌの森」=魔女の映画)は、あなたのために受けたのよ。サラが絵本を読んでくれたでしょ。だから映画は私がやろうと思ったの。サラにあなたを奪われたから嫉妬したのよ。気がつかなかったでしょ」「何で本に書かなかったのよ」「さあ。増刷したら書き直すわ」「そうして。お願いね。魔法、使ったの?」「どうして」「ママを許しそうだから」ファビアンヌ、娘を抱きしめ「あなたとは今のままで充分。魔法なんか使わなくたって」しんみりしていたのに、いきなり娘を引き剝がし「さっきのシーン!」「マノンの?」「何でこんなふうにできなかったのかしら」…娘はリュックに何か言っている。「昨日のシーン、撮り直し、したいらしいの」彼は驚きもせず「できることとできないことがあります」「リュック、本当は辞めるつもり、なかったでしょ」。リュックは黙って席を外し、電話で何やら打ち合わせを始めた▼カトリーヌ・ドヌーブのために撮ったような作品です。ドヌーブの母ものは強く、数々の映画賞と話題作を撮ってきました。失踪した娘の容疑者である男を終身刑に追い込む老いた母「愛しすぎた男37年の疑惑」、自分を捨てたと思っていた母が実は父に殺されていた「隠された日記 母たち、娘たち」、母親への過剰な愛ゆえ家族と葛藤する娘の「クリスマス・ストーリー」、養女を溺愛し、インドシナ独立の混乱を生き抜いた女性「インドシナ」など。ダイエットなど一顧もしない。豪胆であり、王朝の花、牡丹のような女優です。それを正面から受けたジュリエット・ビノシュの陰影のきめ細かさも特筆したい。イーサン・ホークは短い場面で暴君・ファビエンヌの孤独を感じ取る、売れない役者を好演しました。ですが最後の一票は、ウルサ型出演陣の個性をのびのびふるわせた監督・是枝裕和に一票。ラストシーン、ドヌーブがひとり犬を連れてパリの並木道を散歩する。「映画は、映画でなくとも、詩がなくちゃダメよ」というヒロインのセリフそのものでした。

 

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