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特集「ベストコレクション」

2020年6月18日

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」⑩ 
こわれゆく女(上)(1993年 家族映画)

監督 ジョン・カサヴェテス

出演 ジーナ・ローランズ/ピーター・フォーク

シネマ365日 No.3239

あなた、サイテーよ 

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」

家庭が閉鎖空間だとは仕事で外に出ていける男性にはわかりにくいでしょうね。メイビル(ジーナ・ローランズ)は3児の母。夫ニック(ピーター・フォーク)は土木作業の現場監督だ。夫婦だけの時間を持とうと、子供たちを母親に預けて夫の帰りを待っていた夜、水道管破裂の事故発生、夫は帰れなくなる。メイビルは寂しくて夜の街を歩き、入ったバーで行きずりの男を家に泊める。彼女には情緒不安定の傾向があり、ニックの同僚は「電話しろよ」と気にかける。「女房は変わっているが、いかれているわけじゃない。料理、裁縫、風呂の掃除もちゃんとやる。理解に苦しむときもあるが、とにかく俺に惚れている」これが夫の理解の限界です。家事をこなせば問題ないのだ。メイビルの寂しさや孤独がわからない。作業明けの朝、夫はドヤドヤと10人もの同僚を連れてくる。メイビルは嫌な顔もせず、笑顔で朝食を整える。スパゲティにパンにワインにチーズ。夫は「ビールはないのか」あんた、少しは女房を労わればどう?▼メイビルは男を連れ込んだ引け目があるから、歓待しようと心を砕く。同僚の一人に「踊りましょう」と声をかけたとたん、夫は嫉妬で顔色を変え「やめろ、座っていろ」と怒鳴る。やばくなったムードに客たちは撤退。子供たちが戻ってきた。「私を見てどう思う」とメイビルは訊く。「ぼくたちのママだ」「バカみたいとか、凶暴だとか、思う?」「ママは頭がよく美人で繊細だ」やるせなかったメイビルに笑顔が戻る。「こうやって話していると最高よ」。彼女は母性豊かな母であり、子供たちの宝物だった。彼らの母親への愛情と信頼が最後までメイビルを支えます。しかし精神のバランスは崩れやすかった。預かった子供とその父親へのもてなしとして「白鳥の湖」をかけ、それぞれメークさせ、一人は丸裸で走り回る。やってきた姑は肝をつぶす。帰宅したニックは父親の対応が気にいらないと殴り、メイビルをひっぱたき「お前は入院だ。よくなるまで出てくるな」。彼もかなりおかしい人だと思われる▼メイビルにとって大事なものが5つあった。「1番目は愛。2番目は友情。3番目は夫婦の時間。4番目、母であること。5番目、あなたの妻であること」。何も望まないから家に居させてと懇願する妻を入院させて半年。メイビルの退院の日がきた。夫はパーティーで歓迎すると言い、数十人を家に呼ぶ。メイビルの女友達が詰め寄る。「家族だけでやろうと言ったのよ。私はメイビルが好きなの。迎えに行くべきなのに、あなた、サイテーよ」。さすがに姑もニックの無神経に眉をひそめ、集まった客たちにきっぱり「みなさん、もうすぐメイビルが帰ってきます。お引き取りを」。親戚と両親、家族だけのこじんまりした集まりでメイビルを迎えた。メイビルは緊張している。妻のこわばった表情を見た夫は「俺がついている。本当の自分を出せ、自分らしく振る舞え。パーティーだ。家庭的な雰囲気で楽しくやろうぜ」は、メイビルにプレッシャーをかけただけだった。自分を取り囲んでジロジロ見ている視線に圧迫を覚える。「みな帰ってくれない? ニックと寝たいの」。メイビルは自分らしく振舞ったつもりだが夫はいう。「天気とか健康とか、普通の話をしろ」「私にできるわけない。病院で毎日注射された。トイレに連れて行かれゲームや編み物をした。そのあとはショック療法よ。頭の中に電流を通すの」「よせ、メイビル、普通の会話をしろ。暑いとか、寒いとか」メイビルの母親が割って入る「あの子の言いたいことがわからないの!」。メイビルはソファに立って歌い出した。「降りろ」夫は激昂し妻を殴る。子供たちは母親のそばにいようとする。父親は近づけまいとする。妻を、子供たちを2階に引きずり上げながら「殺してやる。ガキ共も殺す」。狂っているのはこっちじゃない? 一波乱すぎてメイビルがつぶやく。「私は異常? なぜこんなことになるのかしら。疲れていたからよ」。逃げ場のない家庭で家事に追われ二六時中気を張り詰めていたのはメイビルの方だ。そんな彼女に「自分らしく」「本当の自分を」などと強制しても、どうしていいかわからないのだ。「こわれゆく」プロセスがドキュメンタリーを見るように無情です。

 

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