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特集「ベストコレクション」

2020年6月19日

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」⑪ 
こわれゆく女(下)(1993年 家族映画)

監督 ジョン・カサヴェテス

出演 ジーナ・ローランズ/ピーター・フォーク

シネマ365日 No.3240

わかんないけど愛してる 

特集「心は紫陽花の花6月のベストコレクション」

夫との間の感情のすれ違いは、どこの夫婦にもあることなのだ、生活には似たり寄ったりの出来事なのだとメイビルは思う。子供たちといるときだけが満ち足りた。「私が成し遂げたことはあなたたちを産んだことくらいね」。夫もまた自分の愛情が空回りしていることにいらだった。交感の糸はきちんと結ばれることなく、もつれ、外れ、混在していく。メルビルは夫を愛し、子供たちを愛している。なのに、なぜ物足りなくてやりきれないのだろう。ジーナ・ローランズは内面の感情のもつれを顔に、体に、手の動きに転化します。大きく目を剥く、視線をそらす、我が子をみる愛しさの目、夫の機嫌を伺う横目、激発と退潮。顔芸というには足りない、彼女の全存在を託した表現でした▼きちんと愛情を伝える前提にはまず相手への理解が要る。理解というのは、こういうことに違いない。興奮して家中を走り回る母親に追いついて小さな娘が言う。小学校の低学年くらいだ。「ママ、ママ、わかんないけど愛している」。一つ一つ選り分けできないけど、全部ひっくるめてママをわかっている、それがたぶん愛の実態なのだろう。家庭という小さな狭い世界に、なんと広大無辺の深奥があることか。この映画は日常が覆ってしまった、ありふれた家庭のそれを繊細に解きほぐす。見ている方は、ジーナ・ローランズの表情と言葉に操られ、心の内部の、ときに暗く、ときに明滅する何か、光のような、影のような、捕らえどころはないのに圧迫してくるものに思い当たる。「大変な一日だったけど、家族が愛し合っていればそれでいい」。客たちが帰り、二人で台所に立ち、後片付けをしながらニックが言う。愛を伝える技術に気がつけばもっといいと思いますけど▼ピーター・フォークはフランク・キャプラ、ロバート・アルドリッチという名監督のもとで「ポケット一杯の幸福」「カリフォルニア・ドールズ」を撮っています。特に「カリフォルニア…」は、しがない女子プロレスのマネージャーがドサ回りをしながら、舞い込んだビッグ・カードに一世一代の大勝負をかける。ピーター・フォークの、うらぶれていても心意気を失わない男の面魂がよかった。ジーナ・ローランズは今年(202089歳。夫のジョン・カサヴェテスとともにインディペンデンスという新しい映画の分野を確立しました。代表作は本作と「グロリア」でしょうが、私は「ポーリー」がよかった。人間の言葉を解するオウム、ポーリーが、可愛がってくれた少女を探しにアメリカ大陸を横断する。巡り合った親切な老婦人アイヴィがジーナ・ローランズだった。彼女はポーリーに地理や人間社会のいろんなことを教える。一羽のオウムのためにポンコツのキャンピングカーを稼働させ、住み慣れた街を出発する。ポーリーはやさしくて知的なアイヴィが好きだ。視力を失った彼女のためにそばを離れず、自分の目に見えるものを毎日語って聞かせる。「アイヴィ、今日は夕陽が綺麗だぜ」アイヴィは自分の死期が近いことを知っている。「ポーリー、いいわね、太陽の沈む方向にむかって飛ぶのよ」。このときジーナは69歳。人間の魅力の一つに数えたい、静謐というものを体現していました。

 

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