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特集「密室でミステリーを」

2020年6月27日

特集「別室でミステリーを」⑦ 
ボーダー/二つの世界(下)(2019年 ファンタジー映画)

監督 アリ・アッバシ

出演 エヴァ・メランデル/エーロ・ミロノフ

シネマ365日 No.3248

やさしきトロル 

特集「別室でミステリーを」

同じトロルでもティーナとヴォーレはまるで性格が違った。ティーナは森でキツネに出会うと「こんにちは」。そのキツネは夜になるとティーナの寝室の窓ガラスに鼻をすり寄せ、ティーナの指を舐める。ヘラジカにも挨拶する。草むらでコオロギを見たら手に取って触感を確かめそっと放してやる。ヴォーレは違う。「僕らには使命がある。君と僕で種を存続させるのだ。そして人間にやり返してやる」「私に残酷なことに意味を見いだせない。誰も傷つけたくない。そう思うのは人間みたい?」「また会おう」ヴォーレは姿を消した。ティーナは父親に詰め寄る。「私を産んだ父と母はどこにいるの!」「私たち夫婦は娘がほしかった。私はサンクトヨルゲンの精神病院の守衛だった。トロルがたくさん収容されていた。長くは生きられなかったから、お前の両親にお前を任せてくれと頼んだ。遺体は病院の裏の墓地に埋めた」▼石を置いてあるだけのうら寂しい墓地があった。ティーナは佇む。自分の本当の名前は「レーヴァ」だった。綺麗な名前だ。それだけが両親の形見だ。ヴォーレから「フェリーで会おう」と連絡があった。ティーナは会いに行った。一緒に行こうというヴォーレに警官が近づく。ヴォーレは手錠のまま慌てもせず、ティーナに話しかけたそうだったが、身を翻してフェリーから飛び降りた。行方はわからなかった。ティーナの家は荒れ放題になっている。ろくでなしの居候ローランドは、ヴォーレが来てから間なしに追い出されていた。家にキツネが来ている。ティーナは動物とも交感できるのだろう。動物たちは異変を教えるように、ティーナのそばに現れるのだ。この日は玄関の入り口に荷物が配達されていた。箱を開けると赤ん坊が入っている。ヒイシットだ。この赤ん坊がオッサンみたいな顔で、うっすらヒゲが生えている。カードが入っていた。「千の湖のある国、フィンランドへようこそ」。トロルからの招待状だ。彼らはティーナを見つけ出したのだ。ティーナは微笑を浮かべ赤ん坊を抱き上げあやす。コオロギを口元に持っていくと、むしゃむしゃと美味そうに食べた▼原作者は「ぼくのエリ 200歳の少女」と同じヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストです。物語の収め方もよく似ています。「僕の…」では吸血鬼の子孫エリとともに、人間社会を捨てた少年が、エリを大きなトランクに隠れさせ、旅に出るところでエンドでした。彼は一生、エリのために生き血を得るため人を殺して生きていくのです。本作では人間への復讐などせず、フィンランドの流浪の民として暮らすことを選んだティーナを暗示して終わります。ハッピーエンドなのかそうでないのかわかりませんが、ティーナが心のやさしいトロルであることが明るさを与えます。本作の「二つの世界」とはジェンダーの境を超えていくことでしょうが、マイノリティとマジョリティの「二つの世界」とも言えます。マイノリティを代表するトロルが、生きにくさを抱えながら、アイデンティティを失わず、新しい目的を手に入れて旅立つエンディングは、ダイバーシティ社会の一つの指針かもしれません。

 

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