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特集「密室でミステリーを」

2020年6月28日

特集「別室でミステリーを」⑧ 
二流小説家シリアリスト(2013年 ミステリー映画)

監督 猪崎宣昭

出演 上川隆也/高橋恵子/片瀬那奈/武田真治/伊武雅刀

シネマ365日 No.3249

友へ 

特集「別室でミステリーを」

伏線が多すぎてチラチラ目移りする、こんなときは犯人役がやれる“圧”のある俳優に目星をつける。本作では高橋恵子だな、と思っていたらアタリよ。彼女・前田礼子は、息子の無罪を立証するために50歳過ぎて司法試験に合格、娼婦から弁護士になったという設定です。息子・呉井大悟に武田真治。エロ雑誌に小説を書く赤羽(上川隆也)に死刑囚・呉井から告白小説執筆の依頼が届く。面会した赤羽は彼のいう「僕の熱烈な信者の女性3人に会って官能小説を書いてくれ。そうしたら真実を話す」と持ちかけられ、3女性に会う。呉井は12年前シリアルフォトキラーとして知られた連続殺人犯だ。モデル募集と称して若い女性を集め、首を切断、首なし死体に花を添えて警察に写真を送りつけ、死刑の判決を受けていた▼赤羽が会った3女性は12年前の事件と同じ殺され方をする。大方の見方は、告白本出版でメディアが再注目する呉井に嫉妬し(違う、違う、本来もてはやされるのは自分なのだ)と、真犯人が存在を主張した殺人、よって呉井は無実だ、というもの。何度かの面会を経て赤羽は呉井が「美しい母」への異常な執着を知る。彼女は幼い呉井を連れ、体を売りながら日本中を転々、荒波打ち寄せる冬の海辺(どことなく『砂の器』ふう)で、焚き火を燃やし、雑炊か何かの乏しい食事をしているとき、警察がやってきて母を逮捕、呉井は里子に出された。この里親の母が「世界で一番憎んでいる」と呉井が今もいうほど虐待を受けた。12年前呉井を逮捕した刑事・町田(伊武雅刀)はこれ以上首を突っ込むなと忠告するが、赤羽は呉井にのめり込み、過去の4人の被害者の遺族の一人、長谷川千夏(片瀬那奈)と独自で調査する。急に素人探偵ふうになります▼呉井は20歳の時初めて女性を殺し、見ていた母がうっとりと微笑んだことから「母親と殺人を共有することで美を作り上げようとした」異常者です。この時点では母親はのちの連続殺人はまだ息子の犯行とは思わず、無実を信じて弁護士になっています。過去の殺人方法をなぞった現在の殺人は、真犯人は別にいるという捜査のかく乱でしょう。赤羽の姪が襲われ、飛び込んできた赤羽が暴漢を引き離すと前田礼子だった…というのもあっけないのですが、ド肝を抜かれたのは遺体を埋めた穴の発掘捜査。平城宮跡でも、掘ってせいぜい1メートルくらいなのに、底にいる人物が小さく見えるほどの深さだ。こんな穴、一人で掘ったから武田真治はムキムキになったのか。頭蓋骨が3つ出た。あと一つは別の場所に埋めたらしい。それはおかしい、と赤羽は第三の犯罪に気づく。遺族会の一人、工場経営者が連続殺人にこと寄せ、妻を殺していた、ことが発覚する▼前田礼子は拘置所で首を吊って死んだ。呉井の刑は執行された。赤羽あての手紙があった。「君と会うのが楽しかった。君の文章が好きだった。決してつまらなくなんかない。自分の才能を信じろ」そしてヘッセの言葉を引用する。「この世のあらゆる書物も君に幸福をもたらしはしない。だが書物は密かに君自身の中に君を立ち返らせる」。最後に二人は妙な友情で繋がった。赤羽は腹をくくって執筆にかかる。献辞は「友へ」。主演級の芝居の大げさなことと、エピソードのばらつきでソンしていますが、力作かと思います。

 

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