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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2020年7月17日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス1」② 
震える舌(1980年 家族映画)

監督 野村芳太郎

出演 渡瀬恒彦/十朱幸代/宇野重吉/中野良子

シネマ365日 No.3267

家族というONE TEAM 

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス1」

野村芳太郎という監督は病気フェチなのでしょうか。その病気が示す症状や、罹患した患者の肉体の変化を映像や絵で示すことに、余人の及び難い情熱があります。「真夜中の招待状」では治療薬の副作用で、顔面が老人のようになり、背中も曲がった少年や、「砂の器」ではハンセン病でした。車椅子に乗って登場した加藤嘉には声をのみました。本作では破傷風です。最初の病院で「風邪」、次の病院で「心因性」念のため大病院で検査を、と言われ、娘を担ぎこんだ病院の教授(宇野重吉)は、軽々しく病名を言わず、幾つもの検査を経て破傷風と決定します。患者の両親は出版社の校正係である父親の昭(渡瀬恒彦)、妻(イラストレーターみたい)の邦江(十朱幸代)、一人娘昌子(若命真裕子)。昌子はまだ学齢に達していません▼「口を開けないのはいつから?」と教授が訊く。「ちょっとこれは、たいへんだよ。お父さん」娘は放射線科、眼科で検査を受け、髄液を抽出される。小さな体に痛々しいほど太い注射だ。「破傷風とは死亡率の高い非常に危険な病気です。指の傷から菌が入ったと思うが、入った菌が毒素を出す。これが怖い。血清治療も毒素と神経が結合した後では役に立たない。娘さんは一度痙攣を起こしているね?」。隔離診察室が設置され、患者は光や音の刺激が痙攣を誘発するため、室内に暗幕を張り巡らす。病室はノック禁止。足音を立てず出入りする医師に看護師。運び込まれる医療器具。具体的な臨床体制が刻々緊張を高めていきます。口が開かなくなり、顔の筋肉が痙攣し、皮肉笑いのような顔になり、首から背中、全身の筋肉に毒素の影響が見られ、背中を仰け反らせる「後弓反張」(こうきゅうはんちょう)と呼ばれる体勢を招き、強度の痙攣が脊椎骨折に至らせることがある。配膳中のトレーが床に落たけたたましい音に娘が反応した。猛烈な痙攣に昭は主治医・能勢(中野良子)を呼びに走るが外来の診察中だった。別の医師が来た。娘は歯を食いしばり、舌を切ったらしく血を噴き出させている。開口器で窒息死を防ぎ、ドレーンやチューブ、カテーテルの挿入口を確保しなければ。「乳歯だよね、まだ生えてくるよね」。医師はペンチ(みたいなもの)で前歯を折るのだ。立て続けに鳴る「バキッ、バキッ」という音が凄まじい▼入院して4日目。不眠不休でつきそう両親は疲労とショックで参ってしまう。邦江は刃物を手に医師と看護師に「もう何もしないで。この子に触れないで。産まなきゃよかった。あんたと結婚しなきゃよかった」と口走る。昭も普通の状態ではなく、医師から感染の心配はないと診断されているにもかかわらず、娘に噛まれた指から菌が侵入している。よって「俺たち3人とも危ない」。妄想に近い先走りでクタクタになる。言っちゃなんだけど、お父さん、自分の感染の心配ばかりでうろたえて、おまけにうたた寝してカーテンが翻り、光が入っているのに気づかず痙攣を誘導させるなんて、メタメタだった▼入院1週間、症状は最悪の事態を脱した。主治医に余裕が戻り昭と邦江も家で休息が取れるようになる。過酷な治療を持ちこたえたのは娘だ。自分たちは何もしてやれなかった、と父は述懐する。それはそうかもしれないけど、何かしてやったか、あるいはしてやらなかったか、ではなく、一緒に受け止め、一緒に戦ったONE TEAMだったじゃない。えげつない苦労を共にしたのよ、センチな反省は要らないわ。お父さん、胸を張って。お疲れ様でした。

 

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