女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ベストコレクション」

2020年7月23日

特集「真夏の夜は7月のベストコレクション」② 
エル・クラン(2016年 事実に基づく映画)

監督 パブロ・トラペロ

出演 ギレルモ・フランチェラ

シネマ365日 No.3273

悪とは強靭でなければ 

特集「真夏の夜は7月のベストコレクション」

各国の映画賞で高評価を得た作品。レベルの高さでは否やはありませんが、登場人物の誰も好きになれませんでした。そのうちでも「◎」がファミリーの父親アルキメデス。扮するのはギレルモ・フランチェラ。アルゼンチンを代表するコメディ俳優で、傑作「瞳の奥の秘密」では、主人公の刑事の相棒となり、いつも冗談ばかり言っている、そして主人公をかばって殺害されるパートナーを演じました。時代は軍事政権が崩壊し、民主政治を取り戻した80年代のアルゼンチン。軍の情報部エリートだったアルキメデス・プッチオは失職する。妻、息子が三人、娘が二人のプッチオ家。苦しくなったアルキメデスは誘拐業を始める。裕福な子弟をさらい身代金を巻き上げるのだ。娘たちは関与していないが、長男のアレハンドロ、次男のマギラは父の誘拐を助けていた。マギラはしかし嫌気がさし、ニュージーランドに行ったきり戻らず、現地で羊飼いになった。三男は「父さんのやっていることは犯罪だ。やめろよ」とアレハンドロに忠告し、サッカーの遠征先から二度と帰国しなかった▼誘拐業はスムーズに行き、アレクサンダーの家は裕福に、身代金を元手にスポーツ用品店を開業し、店は繁盛。人も羨む幸福な一家となった。ところが長男に恋人ができ、まともな生活をしたいとリタイアを親父に打ち明けたところから無敵のチームワークに亀裂が生じる。親父は羊飼いの次男を呼び戻し家業を手伝わせる。彼は4人を誘拐し3人を殺しています。彼には国が悪いという言い分があるが、失職した人間がみな誘拐犯になったのか。まして長男のサッカーチームの同僚、若い子でも殺しちゃうのですから同情の余地なし。女性実業家を誘拐したところ、彼女の息子はケチで「金の工面をしているとか、もう少し時間をくれ」とか言って身代金を払い渋る。引き伸ばされているうちに足がつき、警察に踏み込まれるのですが、親父はボンクラな息子のせいだと怒り狂い「恩知らず、親を刑務所に送る気か」耳を疑うような言葉を吐く。かわいそうに長男は裁判の直前にベランダから飛び降りて自殺未遂に至る▼典型的な家父長支配です。母親は内助の功を発揮し、父親を助ける。娘は何も知らず母親とバカンスを楽しむ。父親は裁判で組織に脅されやむなくやったと無実を主張。次男は懲役12年の判決を受けた後逃亡。長男と親父は無期懲役。親父は刑務所で勉強し司法試験に合格、弁護士となります。生き残ったのは最悪の親父なのよ。こうなったのは国のせい、仕事の失敗は息子のせい、金のあるやつらから身代金を巻き上げたところで、彼らは食うに困るわけではない。ギレルモ・フランチェラが終始、死んだ魚のような冷たい目で自己肯定します。悪とは強靭でなければならぬ。日本では「後妻業の女」がありました。彼女のワルも相当でしたが、この親父みたいに金を巻き上げたあと殺してしまうような残虐さはなかった。ラテン系の犯罪ってコンマの打ち方が違うわ。自分の所業に反省や悔恨はおろか、微動だにしない親父は「悪とは強靭でなければならぬ」を体現していました。

 

あなたにオススメ