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特集「ベストコレクション」

2020年7月29日

特集「真夏の夜は7月のベストコレクション」⑧ 
ジョナサン/ふたつの顔の男(2019年 サスペンス映画)

監督 ビル・オリヴァー

出演 アンセル・エルゴート/パトリシア・クラークソン/スキ・ウォータハウス

シネマ365日 No.3276

胃袋はひとつ 

特集「真夏の夜は7月のベストコレクション」

12時間で人格が入れ替わるふたつの人格を一つの体に持った青年ジョナサン(アンセル・エルゴート)。もう一つの人格はジョン。生まれたばかりの赤ん坊が24時間泣き止まないことに母親は怖くなり、その子を病院の前に捨てた。拾い上げた精神科医ナリマン(パトリシア・クラーク)は赤ん坊を観察し続け、ふたつの人格が眠っていると突き止める。特殊なアラームを脳に装着し、12時間ごとに意識を交代させることで「一つの肉体」を共存させた。「昼の部」はジョナサン。優秀な製図士として建築事務所にパートで働く。5時になれば帰宅し、その日の出来事をビデオに収録してジョンに報告、彼の食事を作って眠る。ジョンはパートの仕事に出て朝に帰り、同じくビデオで報告。7時きっかりジョナサンは目を覚まし、ジョンの行動を確認する▼ベッドはふたつ、歯ブラシも2本。ジョナサンは几帳面で綺麗好きで、冷蔵庫の中も室内も整然、食事も作れば洗濯もする。ジョンはその反対。ジョナサンが最近疲れやすい、体調がよくないとナイマン医師に訴えた。ジョンに恋人ができ、バーで飲み過ぎて二日酔いになっているのが反映されている。「恋人は作らないと決めただろ」とジョンに詰め寄るが「僕は君と違って感情があるからね」と受け流された。問題の女性エレナ(スキ・ウォータマン)に「僕の体の中に二つの人格があるのだ」と打ち明けたが信用しない。しかしジョンだと思った男が、全然似合わない詩的な話をするので、どうやら別人だとわかった。彼女はあっさりジョナサンを受け入れ、未経験の彼に初体験させる。しかしジョナサンがいつまでたってもジョンを吹っ切れず、いつも自分たちの間にいるはずのないジョンがくっついているのを知って終わりにする。なかなかあっさりした女性である。夜の部のジョンがだんだん強くなり、昼の部のジョナサンの時間に食い込み始める。どっちかを消さねばならぬ時がきて、ジョナサンが消え、ジョンが残る▼それはわかったのですけどね。人格が二つだろうと顔が三つだろうと、胃袋はひとつのはずよ。長年にわたって毎日二人分食べるジョナサンが、胃拡張にもならず胃痙攣も起こさず、肥満にもならないのはどうして? ナイマン医師は夜の部のジョンのお話に付き合うだけで睡眠不足になっているじゃない。まあ、先生は昼間、寝られるけどね。ジョンもジョナサンも同居する相方に苦しむようになる。「あなたは大丈夫よ。健全よ。複雑な神経より、強靭な胃袋を信頼なさい」と先生はどうして言ってやらないのだろう。ジョナサンは料理が上手だし、見るからに美味しそうな食事を作るのだ。女性でも三度三度、美しい盛り付けを食卓にのせる料理好きは少ない。おまけに二人は普段、細々と情報交換している。女性を好きになるのは自然だし、経験もできて「よかったな」とジョンは喜んでいるのだ▼ジョンが生き残るにせよ、ジョナサンがそうなるにせよ、いずれは一つの人格に着地することが“二人”の目的だったはずだ。いつまでも12時間交代で、仕事もパート勤務しかできない状態より「そろそろこのへんで一人になろうよ。お前が引っ込むか? 僕なら僕でもいいよ」くらい話し合えるのが、むしろ自然なストーリーの流れだと思える。どっちもが好きになったエレナは(面倒くさいわね)とばかり、ジョナサンと彼の幻影に「終わりね」と一言。さっさと別れを告げたじゃない。見習うべし。多重人格が複雑な、長い経過観察と治療を要することは想像がつきますが、スクリーンに現れるうまそうな料理と、行儀よく、でもしっかり食べる青年…なのに、大脳に太刀打ちできる最強の生存機能がおろそかにされている。けしからん、と素人は胃袋の復権を主張、弁明したくなるのであります。

 

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