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特集「ベストコレクション」

2020年8月5日

特集「精霊流し8月のベストコレクション」⑤ 
マーシュランド(2015年 ミステリー映画)

監督 アルベルト・ロドリゲス

出演 ラウール・アレバロ/ハビエル・グティエレス

シネマ365日 No.3283

ふたりの刑事

特集「精霊流し8月のベストコレクション」

「ゴヤ賞10部門受賞。圧倒的評価のスパニッシュ・ミステリー」と激賞の作品ですが…ラストのモヤモヤが足を引っ張ったわ。そこがいいのだという褒め方もあるでしょうが、手放しで感動するのは難しかった。1980年、フランコ独裁政権の爪痕がまだ残る、アンダルシア州の片田舎、一面の湿地帯(マーシュランド)で事件が起こる。姉妹が沼地の川で全裸殺害死体となって発見された。エストレヤは17歳。カルメンは16歳。一人は乳首が切り取られ複数の刺し傷があり、左手は焼かれている。もう一人は首まわりと腹部に切り傷、左手の指3本が切断。二人とも膣にレイプの痕らしき裂傷。担当する刑事はマドリッドから左遷されたペドロ(ラウール・アレバロ)とフアン(ハビエル・グティエレス)だ▼失踪事件は過去にもあった。2年前の祭りの夜に失踪し、のちに左足首だけ発見された少女。昨年の祭りでもアデラという若い娘が姿を消した。被害者は求人パンフレットを持っていた共通点がある。パンフの発行人はセバスチャンという男。アデラの恋人で町のホテルに勤めていたが少女に執着していた児童性的虐待の男とわかる。姉妹の母がマリナを伴ってフアンに会いに来た。マリナとは遊び人のイケメン、キニが度々学校から呼び出し、町外れの狩猟宿に連れて行った少女で、姉妹と親しかった。狩猟宿で事がすんだ後、裸でベッドに縛られた。別の男が入ってきた。顔は見えず高価なコロンと柔らかい手をしていた。写真を撮られ誰かに話したら写真をばらまくと脅した。町では農場労働者によるストライキが始まり、経営者のコラレスが対応に当たっている。フアンはコラレスのコロンと握手した時の手の柔らかさから、狩猟宿に入って行った男だと確信する。狩猟宿の管理人を脅し上げたフアンは、宿の警備員がセバスチャンであることを突き止める。彼の住む廃屋に踏み込んだペドロとフアンは逃走するセバスチャンを湿地に追い詰めたが、セバスチャンに撃たれた。トドメを刺そうとするセバスチャンにフアンはナイフで反撃、刺し殺した▼車のトランクには傷だらけで半裸のマリナが縛られていた。セバスチャンは犯人に特定され、キニは売春幇助で逮捕。成果を上げたペドロはマドリッドへの栄転が決まる。ペドロはバーで飲んでいる新聞記者から、頼んでおいた写真の引き伸ばしを受け取る。写真の中で撮影している男の腕時計がフアンのものと一緒だった。記者はフアンの前身はフランコ政権下の治安部隊で“カラス”と呼ばれた拷問のエキスパートだと告げた。彼が示した写真資料には銃を手にしたフアンが写っている。ペドロはフアンへの疑問を抱えたまま、フアンと共にマドリードへの帰路につく。真犯人はフアンか、という仕掛けが最大のミステリーでしょうが、ちょっと無理があるわ。フアンは血尿を出して薬が手放せない。にもかかわらず早朝から聞き込みに回り、地元関係者を手なづけ。情報収集する。田舎に飛ばされ膨れっ面をしているペドロより、よほど仕事熱心だわ。独裁政権で生き残るには人に言えないこともあったはず。フアンが病状を顧みず捜査に打ち込むのは贖罪と見えなくもない▼後味の悪さはどうしようもないが、圧巻なのはオープニングの湿地を俯瞰する空撮です。人間の大脳、神経系、繊毛、培養菌の分裂、人体の断層などに受け取れる不気味なジオラマが湿地帯なのです。人間はどこに住めばいいの。無力感に襲われる。茫漠として、そのくせ強引なまでに押し付けてくる無力感って、この映画そっくりね。だからって「圧倒的評価の最高傑作」とまでは持ち上げる気になれなかったわ。なんでかしら。たぶん、ポン引きに体を売ってでも、いやらしい変態親父に弄ばれても、どんな手段を使ってでも閉塞した町を出ようとして殺された少女たちへの哀憐が伝わってこなかったからでしょうね。かろうじて「指を切断、手を焼かれ、失神するような痛さがどんなものかわかるか」と怒鳴りあげたフアンと、むごたらしい死体を見てゲロ吐きにいったペドロ。この違いからして、わたし、フアンの肩を持つのよ。

 

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