女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ザ・クラシックス」

2020年8月14日

特集「ザ・クラシックス9」③ 
舞踏会の手帖(上)(1938年 恋愛映画)

監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ

出演 マリー・ベル/フランソワーズ・ロゼー

シネマ365日 No.3292

あなた、何様よ 

特集「ザ・クラシックス9」

昔の映画って、折り目けじめがはっきりしていて好きです。ストーリーはシャキシャキ進むし、冗長さがありません。本作はまだ2時間20分と長尺ですが、全然タラタラしていません。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の中でも傑作の呼び声高い。誰しも、特に女性にはヒロイン、クリスティーヌ(マリー・ベル)の気持ちがよくわかるからでしょうか…と書いておいてナンだけど、彼女にあまり共感できず、このつまらん旅がいつまで続くのか、やや苦痛を感じてきたときに、ラストでパーッと視界がひらけたというか、デュヴィヴィエ監督の真骨頂を見た思いがしました。クリスティーヌは36歳。コモ湖のほとりの広大な邸宅に未亡人として住む。年上の夫の葬儀を済ませたばかりだ。あまり夫に愛情はなかったみたい。遺品をさっさとゴミ処理みたいに片付けてせいせいしている。そのとき、自分が16歳で社交界デビューした舞踏会の手帖が出てきた▼「つまらん旅」と前述したのは、クリスティーヌは手帖の名前の男性を訪ねる旅に出かけるのです。彼女に命を捧げると、熱いラブコールを送った青年たち10人を。10人もいるのですってよ! 秘書のブレモンが調べると2人は他界。残る8人のうち再会を最も熱望するジェラールは所在不明。クリスティーヌは7人の男性を訪ねることにする。彼女いうには過去を知って未来を考える、ためなのですが、未来なんか「あの人は今」探しに出なくても今ここで考えることでしょ。でも違うらしい。16歳の自分が胸をときめかせた輝きの過去を感じたいのか。まーね。人が思い出に耽るのはつらいことを思い出して(ようし、あのときだって乗り越えたのだ、今度だって)と自分を鼓舞激励するより、過去がこよなく甘い慰撫を与えてくれるからだ。取り返しがつかないからこそ、異国の異邦人のように自分を思い切り突き放せる。それこそが救いなのだ。つまらん、なんて夢にも言ってはいけません▼最初の訪問はジョルジュの家。母親が迎え「あなたはクリスティーヌね、ジョルジュはもうすぐ帰ります。ぜひ会って、あなたの娘さんと結婚させてください」。家政婦は身振りで(アタマがおかしい)と伝える。ジョルジュは20年前、クリスティーナの婚約を聞いて命を絶った。以来母親は息子が生きているかのごとく振舞っているのだ。狂気の母親を演じるのがフランソワーズ・ロゼーです。「ミモザ館」「女だけの都」の名女優。堂々たる風格、備わった品位がよけいに狂人の怖さを引き立てています。二番目がキャバレーの経営者になったピエール。ヴェルレーヌの詩を暗唱した文学青年は強盗団に盗みのレシピを教え手引する弁護士のなれの果てとなり、クリスティーヌの目の前で逮捕されていった。三番目はピアニストのアラン。神父ドミニクとなり、教会で少年たちに合唱の指揮をしていた。彼女を思って死のうとした白皙の青年は、巨大に太り、頭は禿げ、人間違いかと思った。失意のうちにクリスティーヌは教会を去る。でもね、子供たちに美しい歌を教えるなんて立派な仕事じゃない。クリスティーナが気に入らなかったのは、将来を嘱望されたピアニストの夢をすて、太りすぎて禿げたことか。夢の挫折なんか人生につきものでしょ。あなた、何様よ。

 

あなたにオススメ