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特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス」

2020年9月11日

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス2」③ 
おとうと(下)(1960年 家族映画)

監督 市川崑

出演 岸恵子/川口浩/森雅之/田中絹代/岸田今日子

シネマ365日 No.3320

姉さんがいる… 

特集「幾億の星と幾千の月のシネマ・パラダイス2」

診断は末期の結核だった。主治医は、若い姉が看護につくことを危惧する。父も母も病床につきそう余裕はない、弟の世話は私がしますと、姉は感染の恐れをよそに弟と過ごす。ここから水木洋子の脚本は、静けさを装いつつ、怒涛の涙腺決壊シーンを連打していきます。入院を明日に控え、姉と弟が町を歩いている。弟が写真館の前で足を止める。「姉さん、写真撮っておこうよ。病みやつれてからじゃイヤだよ。あと何時間かで俺は寝かされちまう。お金ある?」。家では母が夫に食い下がる。「あなたは碧郎のことばかり心配して、姉がそのために一年一年、年をとっていくことを考えてやったことがおありですか。私は晩婚のうえ再婚で、そのため苦労した。それがわかっているから…」お母さん、やっぱり味方です▼姉が「紳士と出かけた」と看護師が言う。弟は帰ってきた姉に「どうして黙ってたんだい」「それがね、もう一つピンとこないのよ」「情けない女だね、姉さんは。その男がダメなこと、見抜いているくせになぜハッキリ言わないんだ。いい人なら反対しないよ。俺の看病してもらっている都合で言うンじゃない」病気が弟を大人にさせています。姉が島田を結って病院に来た。看護師が褒めると「突然弟が見せてくれと言い出して。どうせ姉さんの結婚式は見ないで終わってしまいそうだって」。病室に入ってきた艶やかな姉に「立派だよ。立派すぎるくらいだから、安心していていいよ。姉さんはもう少し笑ったほうがいいな」。鍋焼きうどんが食べたいとねだった。姉は不便な病室でうどんを煮てやる。「食べやすいように、うどんは短く切ったから」「姉さんも一緒におあがりよ」「そうだね、一緒に食べよう」箸を運ぶ姉に「いいんだよ。一緒に食べたかっただけだよ。テストなんかして、俺は姉さんに比べたら悪党だ。こんなにしてもらっていて、まだ試そうなんて」。母親が痛い足を引きずりながら見舞いに来た。「もっと早く来たかったのだけど、動けないのが辛いわ」「足が悪いのに大変だったね。姉さん、お見舞いに持ってきてくれた缶詰の桃、食べようよ」。母親は息子の初めてのやさしい言葉に喉を詰まらせる▼夜になった。姉は床にゴザを敷き、寝所をこしらえる。「しみじみ生きているありがたさがわかる気がする。みんないい人なんだ。この頃12時になると目が覚めてなかなか眠れない。今夜は看護師さんも一緒に、お茶飲もうよ。11時半に起こしてくれる? 腕をしばっておこう。僕が引っ張るからね。姉さん、僕にはわからないのだけど、誰か好きになったことないの? あったような気がするけど。ないとなればつまんないな。俺も姉さんも」。真夜中の12時前だった。「碧郎さん、引っ張った?」姉が飛び起きた。弟の様相が変わっている。詰所に走る。父が来て、遅れて母も来た。「私よ、母さんよ!」。初めて自分を母と名乗った人の声が聞こえただろうか。「姉さんがいる」その言葉を残して碧郎は息を引き取った。姉は失神する。看護師詰所に運ばれ寝かし付けられたが、ややあって起き出すと袂からエプロンを出し、締めながら誰にともなく「母さんは休んでいて」そう言って部屋を出て行った▼公開時「川口浩の演技が見劣りする」と書いた映画評を覚えている。そんなことないですよ。森雅之、岸恵子、田中絹代。そうそうたる出演者の中で、思春期独特の感性をよく出していた。彼でなければできないことをやっています。綺羅星のようなシネマ・パラダイスの中でも、ひときわ輝く邦画の傑作です。

 

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