女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ベストコレクション」

2020年10月2日

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」② 
ナイチンゲール(下)(2020年 事実に基づく映画)

監督 ジェニファー・ケント

出演 アイスリング・フランシオン/バイカリ・ガナンバル

シネマ365日 No.3341

今も現代の国のどこかで 

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」

もやもやしてきた物語に、きっちり落とし前をつけるシーンが来ました。官舎に出入りするホーキンスを見かけたクレアは、ビリーを物陰に隠し(黒人と見れば問答無用で射殺されてもおかしくなかった)、単身佐官たちのいるバーに入っていきます。ホーキンスの上官の前に立った。「まだ生きていたのか、娼婦」ホーキンスは明らかにビビっています。「私は娼婦じゃない。あんたにレイプされ、夫と赤ん坊を殺された女です。片っ端から女を強姦し、男と子供を殺してどうする気? そのピカピカの軍服、呆れるわ。すました顔で強そうなふり。兵隊さん、ママに愛されなかったの?」上官のホーキンスを見る目が冷たく変わった。彼は軍規に厳しい男だった▼ボニーが危機を察し迎えに来た。愛馬ベレッカを取り返し騎乗して逃げる。「ああいう男、黒人の中にもいる?」とクレア。「中にはいる。黒い心、黒い精霊の化身が」「どうするの」「年取った人たちが正しい道をさとす。先祖や儀式の力を借りて」「それでも聞く耳を持たない人はどう直すの」「直すなんてことはしない。殺す」。その夜、クレアを寝かしつけてから、ビリーは白い液体を練り、上半身に太い縞模様を横に何本も入れると寝所を抜け、官舎に忍び込んだ。ホーキンスを長い槍で刺し貫く。生き残りの部下に発砲され、傷を負ったが喉を突いて止めを刺した。クレアとビリーは馬を駆り、一目散に逃げて海辺に着く。「俺は生きているぞ、白人ども。俺は故郷に帰ってきた。いま父と母と共にある。私たちは強い。帰ってきたぞ」大きく鳥のように両手を広げビリーは踊った。クレアは彼のそばに立ち、夜明けの太陽が昇るのを見ている。差別と偏見しかなかった二人が困難な現実に直面し、心を通わせる。偶然通り掛かった白人の老夫婦が牛に引かせた荷車の「後ろに乗れよ。家に着いたら風呂に入って飯を食え」。妻は嫌な顔をするが夫は頓着しない。「君もここへ座れ」床に座って食べようとしているビリーに席に着くよう勧める。ビリーは涙を流し「ここは俺の国だ」とつぶやく▼黒人へのリンチは目を背ける。理由もなく銃を乱射し、記念品に「首を切り取って帰ろう」とさんざめきながら言うのだ。「その男も始末してやろうか」とクレアに声をかける。クレアはビリーに銃を向けたまま前を歩かせ「夫にさせないと怒るわ」と芝居を打ってその場を切り抜ける。200年前の歴史上の出来事ではなく、現代のどこかの国であったとしてもおかしいと思えない、黒い興奮がぶすぶすと胸を締め付ける。この物語は「今も我々の精神構造と生活の中にある」という監督の言葉は重い。傑作。

 

あなたにオススメ