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特集「ベストコレクション」

2020年10月4日

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」④ 
ラスト・ディール 美術商と名前をなくした肖像(下)(2020年 社会派映画)

監督 クラウス・ハロ

出演 ヘイッキ・ノウシアイネ

シネマ365日 No.3343

全うした者 

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」

値はせり上がっていく。「6000は? 6500。7000は? 7500。8000は?」競うのは二人だけになった。「9000は?」オラヴィは手を挙げた。「1万」。落札である。絵はオラヴィのものになった。金の工面をどうするつもりだ。心配する美術商仲間のパトゥにオラヴィは「レーピン宗教画集」を見せる。「なんてこった!」わがことのように喜ぶパトゥ。しかし困難はこれからだ。パトゥに借金を申し込み、在庫を売り払い、まだ3600ユーロ足りなかった。足もむけたことのなかった娘に会いに行く。元夫の借金を返済中の娘は断る。オットーの部屋に顔を出したオラヴィは、孫の貯金箱を見た。「貯金か。貯金して金持ちになる者はいない。投資した者だけが利益を手にできる」聞かせるともなく呟いたオラヴィの言葉に孫の目が光る。彼は母親の預金通帳を持ち出し、口座から4000ユーロを引き出したのだ▼絵はオラヴィのものとなった。画廊主のサンデルはオラヴィが執着した絵に何かあると感じて絵の調査を秘書に命じる。秘書はミレスガーデン美術館からの書状を持ってきた。そこにはっきり「レーピンのキリスト像」と明記してあった。サンデルが見逃していたのだ。サンデルは悪意のある男だった。オラヴィの買い手に「サインもない絵は贋作かもしれない。買うのは危険だ」と耳打ちし、12万ユーロの取引を潰したのである。贋作の噂が流れたら買い手はつかない。レアは血相変えて父親に詰め寄っていた。オットーの大学資金である金を引き出すなんて許せない。「あなたは誰かを守ったことがあるの? ないわね。いつも自分のことばかり。私が離婚した時も家を失くした時も。もう私たちに関わらないで!」▼オラヴィは事業権を同業者に譲渡し、娘に4000ユーロを返す。家財道具を売り払い、文無しになって失意のうちに死ぬ。遺品整理をする娘の元にサンデルがやってくるのだ。「あの絵はうちがお売りしたものです。現金が必要でしたら特別に買い戻してもいいのですが。確か1万ユーロでしたね」。オットーが怒鳴り込む。「あれはレーピンの絵だ。じいちゃんは知っていた。こんな奴より何倍も詳しかった」。パトゥが来た。サンデルを見て顔色を変え「おい、何の真似だ。ふざけるな」。サンデルを追い払った。オラヴィの遺言書が公開された。「キリストの絵はオットーに譲る」。パトゥは娘に諭す。「簡単に手放しちゃいかん。名画だぞ。10万は下らない」。謎が残っていた。なぜサインはなかったのか。その解答がオラヴィの留守電に入っている。「ミレスゴーデン美術館のシャスティンです。メールを読みました。サイン欠如の件は私たちも不思議でした。予想ですが、彼はあの絵を聖像として描いたのです。聖像にはサインしません。聖像の前では画家も存在を無にするのです。個人よりも全体、誇示よりも謙遜を画家は選んだのでしょう。それが当館の答えです」。謎は解けた。肖像画のキャンバスの裏に一通の手紙がはさんであった。「愛するレア。レーピンの絵をオットーに譲ったことをわかってくれ。わしは悔いている。お前を支え守るべきだった。今になってわかった。オットーを頼んだぞ。賢い子だ」。ハッピーエンドではない。人生の苦い悔いと心通うことのなかった家族。挫折した最後の取引。ボロボロの終着駅だったかもしれない。しかし審美眼は正しかった。彼は「人生を歩んできた者が歩みゆく者に」後を託し、仕事を全うしたのだ。オラヴィよ、以って瞑すべし。

 

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