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特集「ベストコレクション」

2020年10月10日

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」⑩ 
ミッドサマー(下)(2020年 ホラー映画)

監督 アリ・アスター

出演 フローレンス・ビュー/ジャック・レイナー/ビョルン・アンドレセン

シネマ365日 No.3349

所詮インチキよ 

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」

人は寂しさや孤独感をやさしく慰撫されると弱い。家族を失ったダニーにペレは、自分も両親を火事で亡くしコミュニティーが育ててくれた、彼らが家族だ、と慰め安心を与える。崖から飛び降りるのは魂を次の世代に譲り渡す儀式だそうだ。この村の住民がやることは「大きなお世話」の塊である。個人の自由や尊厳はどこにある。思いやりとやさしさの皮を被った押し付けがましいルール。やり方がひどい。ジョシュは殺され地面から腕をニョキっと突き出していた。サイモンは背中を真っ二つに裂かれ、四肢を宙吊りにされ、引きずり出された両肺を赤い翼のように広げていた。少女たちばかりで踊るダンスはあらかじめ企まれていたのだろう、倒れるまで踊り続け最後に残った者がクイーンと呼ばれ、それがダニーだった。フローレンス・ビューはどちらかというと小柄で小太りで、その体に首から下、足が隠れるほど花で飾られる。花とはいずれ枯れるものだ。満艦飾の彼女は腐乱する死の象徴ではないか▼クリスチャンは、美しい少女とセックスが認められる。薬草で意識朦朧となり、全裸の女たちが取り囲む真ん中で女に上乗りになる。それでもイクのだから男ってよくできているのね。女は男が果てた途端「身籠ったわ」と叫んで狂喜する。クリスチャンは解剖して内臓を取り出し空洞となったクマのお腹に押し込められた。すでに死んでいるマークやジョシュの顔の皮を貼り付けた人形がそばに並ぶ。9人目を決めるとき、クリスチャンか村の人間か、ダニーが選んでよいと言われ、ダニーはクリスチャンにしたのだ。彼のセックスの現場を覗き見した(させられた)ダニーは、パニック障害を起こし泣き叫ぶ。犠牲者としての指名は、裏切った男への報復か。さらにペレと彼の弟分のイングマルはボランティアに名乗り出て命を捧げる。神殿には火が放たれ全員炎上する神殿を見ながら、ダニーはゆっくりと微笑を浮かべ、歓喜の表情となる▼監督は狂気によってのみ到達する幸福がある、と言っているが、どうだろう。ショックの連続と怪しい薬草と、極度の疲労で神経がおかしくなったダニーに同情する。とはいえ、自己放擲の状態が幸福かと言われれば、狂気と正気、スレスレのきわどいところで踏みとどまろうと、越境を拒否するのが、普通、人間だろう。それじゃ従来のホラーの主人公と変わりないじゃないかと監督は言いたいのだ。境界を超え、あっちに行ってしまうのを冷たく、淡々と見放すのが、本作の真骨頂に違いない。コミュニティーのほとんどが、老人と老婆と少女であるのはなぜ? 成年男子はペレみたいに世界に散らばり、生贄をスカウトして帰ってくるわけね。ダニーはともかく大学生ばかりの“余所者組”が暴れ回れば、血路を開いて脱出できないわけはなかったでしょうに、まことしやかなインチキに、その気にさせられたのがまずかったわね。このバカらしい映画に最後まで退屈しなかったのは、性悪の監督のおかげよ。

 

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