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特集「ベストコレクション」

2020年10月12日

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」⑫ 
ジュリアン(下)(2019年 社会派映画)

監督 グザヴィエ・ルグラン

出演 ドゥニ・メノーシュ/レア・ドリュッケール/トマ・ジオリア

シネマ365日 No.3351

ママを殴らないで 

特集「10月は燈火親しむベストコレクション」

深夜インターホンが鳴る。母親と息子は息を殺す。何度も執拗になるインターホンにジュリアンは怯える。ミリアムは息子を腕にくるみ「そのうち諦めるわ」。やっとインターホンが止んだ。不安のまま耳を凝らしているとエレベータの上がってくる音がする。ミリアムは飛び起きる。アントワーヌがドアの前に来て「開けてくれ、話をしよう」と大声でドアを叩き続け蹴破ろうとする。隣人が異変に気付き警察に通報した。不法侵入として、パトカーは現場に急行する指示を受ける。アントワーヌは猟銃を携えていた。ドアを蹴破れないと見るや、真夜中というのに銃をぶっ放したのだ。母子は生きた心地がしない。ミリアムもケータイで警察に知らせる。受けた警官は室内に錠のかかる部屋はあるかと確かめ、バスルームだと聞くとそこに閉じこもるように指示する▼ドアに大きな穴を開けたアントワーヌが入ってくる。一室ずつ検分する。「近づいてくる」とミリアムが警官に言うと「落ち着いて。息子さんと一緒にバスタブに隠れて。電話はこのままで。私がついています」と冷静な声。狭いバスタブに抱き合って縮こまる。施錠したバスタブにきたアントワーヌは扉越しに「話はまだ終わっていない。ここを開けろ」。力任せにドアを叩いているとき警官が到着した。「ミリアム、やめさせてくれ。家族と会わせてくれ」とアントワーヌの悲痛な叫び。ケータイの向こうの警官は「終わりました。通話を終了します。あとは現場の警官に任せてください」。アントワーヌを連行され、二人を保護しに来た婦警は「奥さん、ドアを開けてください」穏やかに頼むが恐怖で固まったミリアムは体が動かない。そろそろと身を起こしジュリアンを立たせる。バスタブから出てくるミリアムを、開いたドアから隣人が見ていた。婦警がゆっくりドアを閉め溶暗。そこでエンドだ。味も素っ気も無い終わり方が余韻を盛り上げる。ナイフも銃撃戦もないが、アントワーヌのゆっくりした動きに、刻一刻、心臓の鼓動が早鐘のように打つ▼アントエアーヌが泣きながら「俺は変わった。生まれ変わったのだ」とミリアムに抱きついておいおい泣く場面があります。改心したという男は舌の根も乾かないうちに再び暴力を振るうのがDVの、ほとんどの場合の実態で、アントワーヌの懺悔を聞いてもミリアムが硬直しているのは、そんな悪循環が身に染み込んでいるからです。ジュリアンは大人の複雑な感情の軋轢に挟まり、終始物憂げで、笑顔がありません。ママの新居を教えろと追及するアントワーヌに、ジュリアンが嘘の道筋を教え、車は何度もぐるぐるよく似た道を回る。怒り狂ったアントワーヌに「ママを殴らないで」とジュリアンは泣きながら頼む。暴力の傷跡を心に刻まれたジュリアンに胸が塞がりました。 

 

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