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特集「B級映画に愛をこめて」

2020年10月13日

特集「B級映画に愛を込めて15」① 
ナイト・ストーム(2019年 劇場未公開)

監督 スティーヴン・カンパネッリ

出演 ニコラス・ケイジ/ケイシー・ストリックランド

シネマ365日 No.3352

狂った妻と一蓮托生 

特集「B級映画に愛を込めて15」

くそミソの評価でしたが好きな映画です。退役軍人ウォルター(ニコラス・ケイジ)は妻ファンシー(ケイシー・ストリックランド)と二人暮し。妻がドレスに着替え綺麗にメークして階段から降りてくる。彼女はジャズシンガーだった。しゃがれ気味の声で低く歌いながら階段を降りてくる。脚から映すのはマレーネ・ディートリッヒのオマージュか。「あなたの帽子のかぶり方、あなたのお茶のすすり方、私の夢への登場のしかた、ダメよ、誰も私から奪えない…記念日おめでとう」「?」妻は激怒する。今年も結婚記念日を忘れた。猛烈なビンタ。「ファンシー、俺が悪かった。謝っているだろ」「椅子に座って酒ばかり飲んでいないで、男らしいことをしてよ」「具体的には?」「家を塗る、芝を刈る、私を抱きなさいよ」いきなり夫は女を壁に押し付け、ドスの効いた声で「一回だけは許してやる。二回目は黙っていないぞ」「どうぞ、痛めつけて。タマがあるならね。口先だけよ」▼妻役のケイシー・ストリックランドがいいのだ。夫は元海兵隊。仲間を救えなかったトラウマを抱えた射撃の名手、今は田舎で酒に身を持ち崩す。結婚は破綻、それだけならどこにでもある。しかし問題は妻の方にある。冷え切った夫婦関係であるが、夫は妻と離れがたい。妻の秘密を世間に出すわけにはいかない。ウォルターは見栄も外聞もなく自分に挑んでくる妻の、内に抱いている虚しさがわかっている。子供が欲しいけれどできないのだ。それだけなら養子をもらうなり、人工授精なり、手立てはあるだろう。しかし妻が取った手段は…それが本作を巧みなミステリーにした。ニコラス・ケイジとケイシー・ストリックランドという役者を得て、サイコな妻と、彼女を捨てられない、世を捨てた夫の切なさが絡み合う。テレビがニュースを報道する。「また若者が行方不明です。16歳。ジェフ。次はジャック。4人目の失踪者です」。壊れた柵を直しに来た青年バディにファンシーが言いよる。嵐が近づき、夫婦はなぜかバディを引き止めたがる。泊まることにしたバディに酒を振る舞い、二人だけになると「妻を殺してくれ」とウォルターは頼む。バディは妻が産後ウツで半年も夜の生活はご無沙汰。ファンシーも夫がダメだから、どっちもが吸い付くようにできちゃう▼ダディの目の前で散々いがみ合ったファンシーは自分を連れて逃げてくれとダディに頼み、ウォルターは「あの女の闇の部分を教えてやる」と地下室の鍵を渡す。そこには行方不明になった男女が、筋弛緩剤を射たれもうろうとなって監禁されていた。ダディの妻が捜索願を出し、警察がやってくる。「もう終わりだ。逃げよう」とウォルター。「逃げない」と妻。「あの男と逃げようとしたくせに。刑務所行きだぞ。お前の妄想に付きあえん」。逃走する夫に、「ウォルター、逃げるの、やめなさい」と妻が叫ぶ▼つまりはこういうことだ。ファンシーは小さい頃から大家族を持つのが夢だった。子供を産みたかったがかなわず、とんでもない代案を考えた。若い男女を拉致し、地下室に監禁し、出産を強要していた。ウォルターの逃走後、妻は精神病院に収容された。ダディが仕事に戻ったある日、軍服姿のウォルターがダディの妻リサを人質に、頭に銃を突きつけ、取り囲んだ警官たちに「妻を釈放しろ」と要求した。狂った妻を釈放させてどうするつもりか、自分の手で殺すつもりか。男に生き延びる気はなかった。「ウォルター・フランクリン。第10海兵隊第一大隊所属。ノースカロライナ州、キャンプ・レジューンの銃の名手」名乗りをあげ人質を解放し、両手の拳銃を発砲しながら警官隊に向かった。「明日に向かって撃て」のオマージュです。ラストはファンシーの独白です。「こんな可愛い子は初めて見た」と幼女二人を愛しく眺めるが、子供達は気味悪がって離れる。「私は産めないの。でも常に次の手はある」。強いから狂うのか、狂ったから強いのか。ウォルターは完全に世間からはみ出した妻に、自分の疎外感を重ね、最後まで共に行く一蓮托生を選んでいます。

 

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