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特集「最高のビッチ」

2020年10月29日

特集「最高のビッチ13」⑧ 岩下志麻2 
婉という女(下)(1971年 文芸映画)

監督 今井正

出演 岩下志麻/緒形拳/中村嘉葎雄/山本學/北大路欣也

シネマ365日 No.3368

野中兼山の娘、婉 

特集「最高のビッチ13」

泰山が城の勤めを辞退し田舎に引きこもり勉強に過ごすという手紙が来た。「先生はなぜ婉の気持ちがわからないのか。このすげなさはどうじゃ。男と女の気持ちにはこのように開きがあるのか」。城下で手紙をやり取りするだけで噂を立てられている。「そんなにご迷惑か。先生からこのような世俗に堕ちた言葉を聞くとは」婉は立腹するが、これは泰山を責めるのが気の毒であろう。そうするうちに泰山は江戸に遊学した。そればかりか婉に八人扶持の収入と、しかるべき相手と婚姻するように藩主に願い出ていた。藩主の意向を伝えに来た使者を「スズメの涙の八人扶持などお受けする筋合いはない。婚姻は自分の好きにする」と追い返す。女子であるからものの数に入れられず、あまつさえこのたびの扱いは「屈辱である」。やがて泰山が遊学を終え帰藩した。人気のない神社で再会する。弾七に迎えは朝にして、と言ったのは覚悟を決めて迫るつもりだった▼朝、弾七が迎えに行くと婉は川のほとりで気がぬけたように立ち「先生は素気無くお帰りになった」とつぶやく。弾七は「婉様さえ許せば一生おそばに仕えたい」と、意を決し告白するが「私はお前より二十も年かさ。どうなるものでもない」。そして2年。先の藩主の死んだことによる人事で泰山は蟄居。外出はもとより書物の持ち込みも禁じられたと弾七が伝えた。婉は政治の非道さに怒り心頭に発する。「御政道がむごいものであっても人の心は変えられぬ。先生を訪ねる」訪ねても面会は出来まい、と考えるのは普通の人で、婉は異なる。「先生は二十余年前、30里の道を歩いて訪ねてくれたただ一人のお人。訪ねずば気がすみません!」駕籠を言いつけ蟄居先に走る。途中重臣の一行とぶつかった。行けと命じる。駕籠かきがひるむと「弾七!」先鋒を交代させ、行く手を塞ぐ一行に声をはりあげる。「元執政野中兼山の娘、婉。邪魔立てすると許しませぬぞ!」。二手に割った真ん中を婉の駕籠は進む…▼エンドのナレーションはこうだ。「野中婉。眉も剃らず歯も染めず、振袖姿のまま1725年、65歳没」。世が世ならファッション・アイコンだわ。アイリス・アプフェル(「94歳のニューヨーカー」)みたいじゃない。婉が過去にとらわれず健康に恵まれ、医師の道を精進し、名医と慕われ…しかしながら泰山は「わしには妻子がある。あなたへの思いを断ち切ろうと婚姻を進言した」というノーマルな男ゆえ、恋の成就は叶わなかったが、それでも彼は、誰もが見捨てた獄舎の一家を励ましてくれた、たった一人の人物。その信義は裏切らない。このあたり婉は「恋だ、愛だ」で足元をすくわれない、理性的かつ誇り高い女性です。一時は父の学問が何の役に立つ、とひねくれた時期もあったのですが、世間に出て父が灌漑し、自然災害を防ぎ、農地を開拓し民の実益に貢献した事業を知るにつけ、父親を畏敬します。ラストの一声は、多作な岩下志麻出演作の中でも出色の決めセリフでした。原作は大原富枝の同名小説。結核療養中に書いた「ストマイつんぼ」で文壇デビュー。負の人生を背負った女性に焦点を当て「婉という女」はソビエト連邦他世界各国に翻訳されました。

 

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