女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「別室でミステリーを」

2020年11月15日

特集「別室でミステリーを2」⑮ 
怒り(下)(2016年 ミステリー映画)

監督 李相日

出演 渡辺謙/森山未來/妻夫木聡/松山ケンイチ/宮崎あおい/綾野剛

シネマ365日 No.3385

それぞれの「怒り」 

特集「別室でミステリーを2」⑪

本作の男たちはとにかくよく泣く。身元がばれて逃走しようとしていた田代は、愛子の父、洋平に「よく頑張った。逃げ隠れせず、家に戻ってこい」と言われ泣く。ゲイの優馬は母親を看取ってくれた直人を葬式には呼ばず「お前のこと、なんと人に言ったらいいか」と、2人の関係に後ろめたさを感じている。「一緒の墓に入ろうか」と直人に持ちかけ「冗談だよ」とごまかす。直人は「一緒じゃなくても隣同士でも」とうっすら望みをもらす。直人が失踪した。優馬は以前直人が喫茶店で話し込んでいた女性に会い直人の素性を聞く。直人は詳しく言わなかったし、優馬も聞かなかった。彼女は「直人とは孤児院で兄妹のように育った、心臓に難病があり、手術でどうにもできない、今まで薬で保たせていた。直人は先日、公園の藪の陰で倒れ死んでいた」と告げる。優馬は歩きながら滂沱と泣く▼辰也はレイプの現場にいながら泉を助けられず物陰に隠れて身をこわばらせているだけだった。レイプ犯の米兵が去ったあと、倒れている泉のそばで泣く。三者三様の泣きのシーン。優馬役の妻夫木が、本音を出しながら韜晦する、同性愛者の複雑な内面をうまく出していた。直人は手配写真によれば頬に3つの黒子があるとか、ふっくらしているとか、直人本人にそっくりなのだがこれは観客へのギミック。本論に全然関係ない。田代も世間を隠れて逃走中にしては、今までしつこく追いかけてきた債権者たちが迷惑をかけるのでは、という心配があったとは思うが、それにしては早々と愛子と所帯を持つし、父親に素性を知られたところで、もともと愛子が打ち明けていることだし、今さら隠すの、逃げるの、ということではないと思うが、じくじく思い迷ってやっぱりトンズラを決める。でも義父の温かい言葉で立ち直ることを決める。立ち直るとは言ったが、借金したのは父親で彼の責任ではないのだから、タチの悪い債権者は法廷に引きずり出すのがいちばんよいのであるが、それをする手立ても、考えつかず、結果的に泣いている▼犯人の森山未來は「人を見下すことで生きてきた」から、疲労困憊している時に冷たい麦茶を差し出してくれた主婦を「俺を見下している」と逆恨みするなど、どうしようもないサイコパスだ。しかし犯人サイコ説でミステリーを締めくくるのは、組み立てとしてはどうしても弱くなる。だが「怒り」というタイトルを考えた場合、理由は分からないがふつふつとたぎってくる怒りをいう点では、彼のキャラはふさわしい。優馬には直人のことが何もわかっていなかった後悔と怒りがある。田代は28歳で世間から隠れ回っている自分への怒りがある。言い換えればそれぞれの怒りのヴァリエーションが織りなす劇とも言える。しかし「怒り」の締めはやはりこの人、渡辺謙になる。漁猟組合に努める初老の漁師。男だから娘の心のひだはよく分からないに違いないが、深い傷を負った娘を、痛ましさを胸に収めて見守る。過剰に励まさずベタベタやさしさも示さず、夫となる男の正体に疑問があるから、千葉から軽井沢までトラックを飛ばして単身調べに行く。風俗で働いていた娘をさらに傷つける、近隣の心ない噂に煮えくり返りながら、怒りに支配されず、心乱さず、近すぎず遠すぎず娘の幸せを守ろうとする男親の愛情がいい。

 

あなたにオススメ