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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2020年11月16日

特集「美しい虚無12」① 
ギターはもう聞こえない(1994年 恋愛映画)

監督 フィリップ・ガレル

出演 ブノワ・レジャン/ヨハンナ・テア・ステーゲ

シネマ365日 No.3386

虚しさの密閉空間 

特集「美しい虚無12」

愛と希望の廃墟があるとしたら、この映画の二人の関係だろう。ジェラール(ブノワ・レジャン)とマリアンヌ(ヨハンナ・テア・ステーゲ)はこんな会話を交わす。「通知を見た? ガス、止めるのだって」「かまわんよ」「電気も。飢えと寒さで死んじゃうわ。愛があれば寒さもしのげてハイになれるのかしら」「その通りさ」「本気で愛している?」「だから君は生きている。僕を嫌いになれよ。わかるから」「そうするわ」「やめてくれ、君から嫌いという言葉を聞いただけでもう気分が悪い」。劇中では、収入とか職業とか具体的な生活の要素は切り捨てられ、別れて戻り、また別れ、その度に女は実体を薄めていく。ヘロインに手を出した二人は社会からドロップアウト。お定まりの置き手紙があった。「愛している。でも別れよう。僕のそばで死ぬより、一人で生きてくれ。この気持ちを疑わないでほしい。いつまでも愛している。ジェラール」。マリアンヌはドイツに旅立った。男は結婚して家庭を持ち、男の子に恵まれ、健全な市民として安定した生活に入る。ある日かかってきた電話の主が「マリアンヌからだ」と男は妻アリーンに知らせる。妻は「行けば。私はここにいる」▼二人の女がカフェであった。「幸せなんか要らなかった。他のことを求めていたの。ヒーローになって社会を変えること。ところが彼は堕落して、私みたいな女と一緒になったのね」「初めから喧嘩腰ね。なんの解決にもならないじゃない」「過去には逆らえないのよ。私たちはとても幸せで、とても不幸だったのかも。あなたにはわかりっこない。私たちにもわからない。おごってくれる? お金ないの」。二人は初対面なのに、一人の男を介しているがゆえに、数年来の知己のような会話だ。男は妻がいながら若い娘と情事を重ねる。そんなある日唐突にマリアンヌの死を知る。「マリアンヌが死んだわ」と妻が告げる。「何があった」「自転車に乗って道端で死んでいたそうよ。イビサ島で。病気だったらしいわ。さっき連絡が来たの」▼笑い声の響かない映画です。愛が消えても大抵のカップルは、あちこち空いた心の穴にツギを当て、コラージュみたいになった愛をまとっている。それも愛。マリアンヌのように風に吹かれてコラージュが、バラバラにちぎれていくのを見つめているのも愛。ジェラールときたら、とっくにバラバラになったコラージュをかき集めているような男です。彼は一人でマリアンヌが眠るベルリンを訪れる。いかに濃密であったかなかったかだけが愛を測る尺度かも。マリアンヌと過ごした時間がジェラールの心に強い影を投げかけてくる。彼は家を開けるようになり、妻との間に隙間風が吹き始める。これが「死ぬまで一緒」と誓った愛なのですね。マリアンヌのモデルはフィリップ・ガレル監督の元妻です。心にグサッとくる彼の厭世観は独特の芳香を放ち、ヨーロッパの俳優の関心をとらえてやまず、カトリーヌ・ドヌーブが熱いラブコールで撮ったのが「夜風の匂い」。これも男は影が薄く、ドヌーブがけっこうなビッチでした。本作の突き付けてくる、虚しさの密閉空間は息苦しい。それを救っているのか倍加しているのかはともかく、撮影監督がカロリーヌ・シャンプティエです。撮影はこの人でなければとオファーされる女性。「ポネット」「不完全な二人」「ハンナ・アーレント」「画家モリゾ マネの描いた美女」「夜明けの祈り」など、鋭く美しい映像をスクリーンにとどめます。本作では主演女優ヨハンナ・テア・ステーゲのすさまじいソバカスをショックなまでにドアップにして、二度と忘れられないシーンにしています。

 

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