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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2020年11月18日

特集「美しい虚無12」③ 
サラブレッド(下)(2019年 サイコ映画)

監督 コリー・フィンリー

出演 アニャ・テイラージョイ/オリヴィア・クック/アントン・イェルチン

シネマ365日 No.3388

今はただ走るがいい

特集「美しい虚無12」

アマンダとリリーがティムを脅すシーン。「俺をゆすって継父を殺させようと? 俺には俺の人生があるさ。今は下積みだ。10年先には高級車を乗り回し家族と一緒にこんな豪邸に暮らしているさ」「でも性犯罪者リストに載ったわ。子供とセックスしたのは同年代と話すのが怖いからよ」アマンダに図星を指され、殴り飛ばして襲いかかろうとしたら、後ろからリリーが拳銃を突きつけた。やれるものか、とかなんとかティムが長々講釈を垂れていると、アマンダがスタンドの頭をガツン。リリーに「ためらわないで。無能や不親切や悪人よりタチが悪いのは優柔不断よ」。ティムは頭をさすり、さすり、家から出て行った。刺激が強くて無口になったリリーに「(こういう時)何かやるべき? ハグとか」とアマンダ。彼女ってどうも憎めないね▼継父が学費生活費一切を経済封鎖すると引導を渡し二階の部屋に引き上げた。感情が激し包丁を持ち出してタバコを吸うリリー。アマンダ「彼にも一理ある。あなた、共感するのは苦手でしょ」とリリーの痛いところをつく。二人はソファに座って話す。「あなたの人生はどう。生きる価値があるの。幸せを感じないことで」「考えたことなかった」とアマンダがジュースを飲む。「やめて」と止めたリリー。「睡眠薬を入れた。あなたを眠らせ私は二階に行く、継父を殺しあなたにナイフを持たせる…どうかした?」アマンダはジュースを飲み干す。「やめろと言ったのに」「私は無意味な人生だから。有能な模倣者なだけ」。アマンダは眠った。ややたって、血だらけのナイフを下げたリリーが降りてきて、眠るアマンダに抱きついて泣く▼シーン転換。ティムはホテルのボーイとなり真面目に働いている。リリーが通りかかった。「聞いたよ。お悔やみを」「見違えたわ。私、大学に復学するの。大変だけど、頑張っているわ。あなたに感謝しているわ。実行しなかったこと」「彼女は?」とアマンダのことを訊く。「手紙は来たけど、捨てたわ」ウソである。こう書いてあった。「ここ(刑務所)も悪くないよ。食事は美味しくて大半の人はいい人。私の失われた記憶を取り戻そうとみな必死で笑える。あのリビングで薬入りのジュースを飲むと、あなたが叫ぶ夢を何度も見た。もう一つ見る夢は、私は死にかけのハネムーナー(サラブレッドの名前)になって、上空から猛スピードで変わりゆく町を眺める。何世代の人々がスマホばかり見つめている。町にはサラブレッドしかいなく、彼らの飼い主の記憶はなく、自身の価格も知らず、ただ交尾し荒れた町を走る」▼刑務所という隔離ゾーンに入って、ようやくアマンダは自分を取り戻していた。罪をなすりつけたリリーを恨んでいるのでもない。人生の意味を見つけられなかったアマンダにとって、リリーはただ一人、模倣者でない人生を与えた人間だった。心の障害だった継父を除いて、幸せになるかもしれない、ならないかもしれない。どこかで狂ってしまわなければいいが。自分にしたのと同じことをいつか誰かに繰り返すだろう。アマンダにはリリーが荒れた町を走るサラブレッドのように映る。部屋に二人でいる時、自分が一歩近づいたらリリーは怯えた。「殴られると思って」。こうしたかっただけ、とハグしたら抱き返した。人と共感することに壁を築いていたのはリリーの方だった。自分はただ模倣していただけなのに。今はただ走るがいい。たとえ虚無の中であろうと、それだけがリリー、あなたの生きる術。

 

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