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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2020年11月22日

特集「美しい虚無12」⑦ 
ナンシー(2020年 家族映画) 

監督 クリスティーナ・チョー

出演 アンドレア・ライズボロー/スティーヴ・ブシェミ/J・スミス=キャメロン

シネマ365日 No.3392

愛している、無条件で 

特集「美しい虚無12」

ヒロイン、ナンシー(アンドレア・ライズボロー)は嘘ばかりつくが、家庭環境を考えれば同情する。母親はパーキンソン病を患い、手足の震えや痛みを始終ナンシーに訴え、愚痴を言うほか、会話がない。病人が家にいる、つききりで介護が必要な環境はそれだけで心理的な負担だ。たださえ内向きのナンシーは職場の同僚や、ネットで知り合った男にテキトーな嘘をついて関係性を作ろうとする、というより嘘をつかなければ会話や関係が成り立たない女性になっている。深い井戸の底に自分を押し込め、日の当たる大地には出られない隠花植物なのだ。母親は睡眠中に脳梗塞を起こし死亡した。母親を亡くしたことがよりひどい孤独になったのか、重荷が外れてせいせいしたのか。どっちかわからない。後者ではないか。なぜならナンシーは次なる目的を定め、積極的にアクションを起こすのだ▼30年前に行方不明になった少女ブルックの、成長したCGが自分によく似ていると思い、両親を訪ねる。30歳の女がとる行動とは考えられない判断に戸惑う。ブルックの家庭は、父親レオ(スティーヴ・ブシェミ)は心理学者、母親エレン(J・スミス=キャメロン)は比較文学の教授。著作もある。二人は疑問を持ちながらもナンシーを温かく迎える。DNA鑑定が必要となった。ナンシーはばれるのは時間の問題だと知るがエレンはやさしく、態度を変えない。レオもナンシーが娘ではないとわかっているが、妻をがっかりさせないために自分の考えを言わない。鑑定の結果を聞いて泣くエレンを部屋の隅から見たナンシーは事実を話そうとするが、エレンは「明日聞きましょう」とはぐらかし「人の存在ははかない。大切なのは今ある関係よ。触れられる相手よ」とナンシーに言うのだ。偽物だとはわかっても彼女を受け入れると決める▼「愛している。無条件で」そう言って抱きしめるエレンに、ナンシーは耐えられなくなる。「本当のことを話すわ。隠したことがいくつもあるの」「あなたは苦労したのよ。それも、もう過去よ。私たちがいる。味方するわ」。しかしナンシーは深夜、手荷物をまとめ猫を連れて出て行く。窓からレオが見ている。やさしい夫婦に、自分をさらけ出す一歩手前まで行ったのにできなかった。ナンシーは逃げ出したのだ。ただ彼女がエレンとレオの愛情を拒否したことは、嘘などつかなくても、ありのままの自分として自身と向き合い生きて行く、やれるかどうかわからないが、やってみよう。そう決めた結果かもしれない。いつかナンシーがエレンとレオを訪ね、社会的人間として立ち直った姿を見せてくれればいいのだけど。ヒロインのアンドレア・ライズボローは「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」や、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」でエマ・ストーンの恋人を、スティーヴ・ブシェミは「コン・エアー」の幼女殺害者や「28DAYS」。J・スミス=キャメロンは「恋に焦がれて」などがありますが、本作がいちばんよかった。「愛している、無条件で」にグッときました。

 

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