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特集「偏愛力」

2020年11月30日

特集「偏愛力9」④ 
ドラキュラ血のしたたり(1972年 ホラー映画)

監督 ジョン・ハフ

出演 ピーター・カッシング/ダミアン・トーマス/マドレーヌ・コリンソン

シネマ365日 No.3400

好きにしてくださいな 

特集「偏愛力9」

時代は1920年。娼婦と男二人の三角関係のお話。男の一人はローマ社交界きってのモテ男、ダニエーレ・バニャスコ公爵(テレンス・スタンプ)、もう一人は彼の従兄でもあるミケーレ・バッタ侯爵(マルチェロ・マストロヤンニ)。女はマノエラ(ラウラ・アントネッリ)。レストランでマノエラを見初めた公爵は、彼女の婚約者を無視「私の女になれ」と口説く。浮名を流してきた公爵は、思うようになりそうでならないマノエラが腹立たしい。しつこく彼女の男性経験をほじくり「15歳で初めて知った」男とは「娘を手なづけるのがうまい男だった」と聞く。ミケーレに違いないと公爵は見当をつける。アタリ。ミケーレは別れたもののいまだにマノエラを思い切れない。公爵の新しい彼女がマノエラだとわかった。苦々しい▼テレンス・スタンプは36歳でした。女を口説くかギャンブルか、クラブで飲み会か。マノエラを知ってからは社交界の招待状は執事にすべてキャンセルさせ、田舎の友人を訪ねて頭を冷やしに行くが効果はない。友人の家で毒薬を見つけ、密かに持って帰ってマノエラのお茶に垂らすが、口をつける寸前はたき落とす。要するに、金をくれてもいらん、イヤな男を演じます。マルチェロ・マストロヤンニは51歳だった。「不本意な別れ方だった。今も君を愛している。君を取り戻す。処女の君を手に入れたのは私だ。偉くなったものだな、大切な最初の男を見下げるとは」と勝手に決め、ピストルまで取り出し「命より君の愛が欲しい。帰さないぞ。こんな別れは耐えられない。約束のない愛なんて」。ところで婚約者はどうなった? マノエラは彼に別れを告げた。「あなたを傷つけたくない」婚約者「公爵が君を愛している証拠はないだろ」「愛しているの」「僕がマヌケだからだ」当たっていますけど、公爵や侯爵より、生活を共にするにはよほどまともな男性です▼無政府主義運動が勃発し始めているイタリアにあっても、本作の貴族達が関心を示した様子はない。彼らは社会に背を向けて居食いしている滅びゆく人種なのですが、気づこうともしていない。娼館で客を取るマノエラのほうが敏感です。彼女は侯爵の屋敷を出てパリに去る。侯爵は拳銃自殺する。死んで花実が咲くものか、と嘆くのは生活に追われる庶民の感覚であって、退屈を持て余している貴族には他に考えようもないのだ。苦労していない人って選択肢が少ないのね。マノエラがどっちの男も振ったのは、彼らに熱も覇気も本気もないからよ。いくら愛していると言ってもどうせ別の女に入れあげるのは目に見えているし(娼館でそんな男をイヤというほど見てきた)、生産性のない人生が活気をもたらすことはない。傲慢で気位だけ高く、女を見下す無職の男ほど始末の悪いものはない。本作に続く「悦楽の貴婦人」には、仕事しない男に代わり社会に出て行くヒロインが登場したところを見ると、マノエラの「死ぬなり生きるなり、好きにしてくださいな」とでも言っているような去り方は、彼女の自我の覚醒前夜だった。

 

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