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特集「ダンディズム-dandyism-」

2021年1月6日

特集「ダンディズム8」⑥ 市川雷蔵6 
若親分 兇状旅(1967年 社会派映画)

監督 森一生

出演 市川雷蔵/江波杏子

シネマ365日 No.3437

高度なバカバカしさ 

特集「ダンディズム8」

雷蔵は「若親分」にくたびれてきたのではないか。冒頭、彼の後ろ姿を見てふとそんな気がした。お多福の面を頭の後ろにつけ、祭りの雑踏をいく背中がやや揺らいでいる。ほろ酔いの若親分なんて初めてである。映画は1960年のピークを境に観客動員数が落ち込んできていた。大映宣伝部の前に張り出される月間平均の、興収データを見た下駄履きの雷蔵が「なんでこんなに入らんのかなあ」とつぶやいた。東映はこの時期思い切った方向転換に出た。テレビで取りあげられない任侠路線、つまりヤクザ映画に舵を切ったのだ。その勢いを感じていた池広一夫監督は雷蔵主演で海軍士官を主人公にした映画を撮りたいと会社に提案したが採用されなかった。東映と同じ趣向の任侠映画では大映が太刀打ちできるはずがないと池広は考えた。実現にこぎつけた元海軍少尉の「若親分」は大ヒットした。1965年3月に公開。8月に第二作「若親分出獄」。翌年3月に「若親分喧嘩状」。矢継ぎ早に繰り出される若親分シリーズに当時の勢いを見ることができる▼任侠物とは、一言で言えば二大勢力の対立と抗争、それに絡む義理と人情のせめぎ合い、勧善懲悪の着地点だ。雷蔵の若親分も例外ではない。理不尽な横車を押してくる悪党どもを相手に、決戦の場に単身乗り込み、海軍仕込みの抜刀術と見事なアクションで斬り伏せ、殴り倒す。これがあの虚弱を懸念された雷蔵かと目をみはるスタントだ。しかし「元海軍士官」は、最初こそ水戸黄門の葵の紋と同じ役割を果たしたが、回を追うにつれマンネリ化し、第一作「若親分」で見せた凛々しい士官姿は仮装大会の擦り切れた出し物みたいになってしまった。映画産業の復興を真摯に捉え、悩んでいた雷蔵にそれがわからなかったはずはない。にもかかわらず出演し続けたのは、どんな役でも一作入魂をスクリーンで証明してきた、雷蔵という役者の力量と、それに賭ける誇りと自信だった。当然だろう。歌舞伎の世界の冷飯食いで、ろくな役も与えられない陽のあたらない隅っこにいた彼にとって、映画とは人生逆転の奇跡の場所だったのだから▼本作の粗筋はちょっとしたミステリー仕立てがやや新しい。海軍時代の親友高木が自殺した。南条武(市川雷蔵)はその死に疑問を持ち、土地の運送業者となった元海軍の武の部下・金杉、親代々土建屋を営む千代子(江波杏子)、町のボス土屋子爵、武器を運ぶ密輸船の黒幕は大物政治家・俵藤。高木は自分が図らずも死の商人に利用されたことを恥とし、自決した。武は土屋と俵藤を切り、高木の死は事故であるとして海軍を巻き込まず、自首する。B級以外の何物でもないが、こういう言い方ができるなら、観客を納得させる娯楽性、あるいは高度なバカバカしさは映画が与える幸福感のひとつだ。

 

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