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特集「ダンディズム-dandyism-」

2021年1月11日

特集「ダンディズム8」⑪ 成田三樹夫 
女賭場荒らし(1967年 社会派映画)

監督 弓削太郎

出演 江波杏子/成田三樹夫

シネマ365日 No.3442

黒百合 

特集「ダンディズム8」

成田三樹夫が珍しく悪役でなく、ヒロイン大滝銀子(江波杏子)を助ける神出鬼没の壺振り、小出鉄五郎を演じます。父の辰吉(加藤嘉)が個人タクシーの営業認可料50万円の金策に悩んでいるのを知った銀子は、バーで知り合った鉄五郎に誘われある賭場でサイコロ博打やり大金を稼いだ。辰吉は激怒する。彼はかつて昇り竜の辰と呼ばれる壺振りだった。堅気になったと思ったら娘が壺振り。辰吉は銀子の金を返しに賭場に行き、イカサマを注意したことから逆恨みを買い、帰途を襲われ致命傷を負う。苦しい息の下から銀子にイカサマなしの日本一の壺振りになれと言い残して死ぬ。それから2年、どんな賽の目も思い通りに出せる腕になった銀子は旅から旅に、賭場を渡り歩く女賭博師となる。鐵五郎はやめろと諌めるが銀子は聞かない。三番勝負で鐵五郎に勝った銀子は「昇り竜のお銀」と名乗る▼鐵五郎は「疾風の鉄」と異名をとる壺振りの名人だった。銀子はいつか鐵五郎に恋心を抱く。しかし鐵五郎には秋子(高千穂ひづる)という女性がいた。ヤクザ同士の抗争で銀子をかばった秋子は重傷を負い、自分は銀子の実の姉だと打ち明け息をひきとる。その場に居あわせ、敵を数人切り倒した鐵五郎は、秋子とは恋仲で一生にただ一人の女だった…自分は自首して人生をやり直す、と言い残して去る。お銀ちゃん、降られて号泣します。成田三樹夫の掘りの深い顔と江波杏子のエキゾチックな容貌が釣り合って絵になります。和服の立ち姿といえば健さんが定番ですが、本作の成田三樹夫もよく似合っている。わずか55歳で胃ガンのため亡くなりましたが、彼の入院先の主治医は「芸能人らしさが全然なく、哲学と美意識で自分を律するストイックな人だった」と回顧しています。病床に置いてあるのは本ばかり。文学書であり、詩集であり、歳時記であり。彼は基本的に学者筋だった。東大を中退し山形大英文科に入り、卒業を目前にして俳優の道に入る。俳優という職業を「世の中全体から見れば余計者だ。だから俺は河原乞食という言葉が大好きなわけよ。人気や名声が欲しいなら役者なんかやるなよ」と、ダンディズムそのものの言葉を残している▼温子夫人は成田より13歳年下。もらった手紙にこうあった。「この辺で勉強のし直しをするつもりです。とにかくもっと自分をいじめてみます。男が余裕をもって生きているなんて醜悪だと思う。ギリギリの曲芸師のような、そんな具合に生き続けるのが男の務めと思っています。色気のない便りになってごめんなさい」。人前での涙は安っぽくなるから泣くな、と夫人は言われていた。だから多分、泣き顔は見せなかっただろう。本作を監督した弓削太郎は、成田三樹夫を可愛がっていたと言われる。弓削の死は悲劇的だった。大映が倒産した1972年失踪し、73年軽井沢の父親の別荘で、首吊り状態で発見された。すでにミイラ化され所持品の日記に「死ぬ」と書かれてあった。成田三樹夫とどう関係あるのかといえば分からない。ただ成田三樹夫がブレークしたのは大映倒産後、東映に入社した「仁義なき戦いシリーズ」だったが、悪役としての最盛期は大映時代だったと思える。ニヒルとダンディズムを併せ持つ新しいキャラクターを創造した。本作は彼の珍しい善人役だが、ダークヒーローとしての矜持はいかんなくにじみ出ていると思う。白州正子は随筆「ほんもの」の「雲になった成田三樹夫」で、「脇役とはいえ彼が現れると主役を食ってしまうことが多かった」と書き、「黒百合」というメタファーで独特の存在感をたたえています。

 

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