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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月8日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑧ 
陸軍中野学校(1966年 事実に基づく映画)

監督 増村保造

出演 市川雷蔵/小川真由美/加東大介

シネマ365日 No.3470

非情の雷さま 

特集「昭和のスター列伝3」

雷蔵作品では唯一「二度と見たくない傑作」。三好次郎陸軍少尉(市川雷蔵)は草薙中佐(加東大介)と名乗る男から、18人の若い士官とともに、1年間のスパイ教育を受けることになる。彼らは士官学校出身ではなく、東大、慶応、明治、立教などを卒業した新米少尉。理由は、純軍人は頭が硬いから融通が利かない、スパイは世間一般の常識ある、かつ教養ある優秀なエリートでなければならぬとのこと。次郎は母親と婚約者・雪子(小川真由美)から一方的に隔離され、名前も変え戸籍も消し、所在も教えず、靖国神社の隣にある愛国婦人会本部の中にある木造2階建のバラックで特訓が始まる。一般の社会人としての出世や栄達がないばかりか、命を顧みずあらゆる拷問に耐え、絶対に口を割らず情報を入手する。草薙の指示はただ一つ「死ぬな」▼軍令とあれば従わねばならない時代ですから、仕方ないといえば仕方ないのですが、次郎の資質そのものにスパイに適した冷たさがある。仲間の軍刀を売って、恋人に使う金を作ろうとした男が参謀本部に連行されることになる。肩で風をきる参謀本部の士官に比べると、中野学校は情報機関として実績もなく、スパイ養成など必要性が認められず予算もついていなかった。たださえ肩身が狭いのに逮捕者など出したら存続に関わる。参謀本部に連れて行かれたら拷問死だろう。結果「お前、腹を切れ」。過酷な訓練でノイローゼになり首をつった者もいた。刃の上を刃渡りするような組織だ。国家のためと言いながら謀略を駆使して裏切るのがスパイの仕事ではないかと、疑問を呈する彼らに草薙は「スパイの根本精神は至誠だ」と説く。「日本政府はアジア人民を奴隷化するつもりだ。君たちは各国に派遣され、土地に根を下ろし人民の友人となり何年も暮らす」そして明石大佐の名を挙げ「彼はレーニンの友人となり、日露戦争を勝利に導いた」諜報活動とは最終的に祖国が勝利する根幹であると。こういうセリフを聞くとどことなく肌がザラつくのは私だけ?▼雪子は失踪した次郎を探し、伝手をたどって参謀本部の英文タイピストとして採用される。彼女の前任地は丸の内の貿易商社。ウィリアムズ社長が実は英国のスパイで、次郎は死んだと雪子にガセネタをつかませ「このままでは軍人が日本をダメにする。一緒に平和のために戦いましょう」とか言って、雪子が聞き知った参謀本部の情報を得る。スパイ教育を終えた次郎は実践に就いた。英国外国電報の暗号コードを盗み出すのだ。領事館に侵入した次郎はコードブックを撮影し入手に成功したが、英国側はコードブックの内容を変更していた。「何の役にも立たん」と罵る参謀本部。内通者がいる。次郎は参謀本部で働く雪子を見かけ、ひったくりを装いハンドバッグを奪うとウィリアムズの連絡があぶり出し文字で出てきた。草薙に報告する。草薙は「なんとか君の婚約者を救う手はないか。連行されたら拷問と屈辱的な仕打ちが待っている。いっそ君の手で殺す方がよくないか。苦しまずに死ねる薬物で」「わかりました」瞬きもせず次郎は賛成するのだ▼雪子は自分の貯金から初任官する次郎の軍服を誂えた。凛々しい少尉。次郎の母は目を潤ませる。軍服作ってあげたから恩に着せはしなかったでしょうけど、彼女の愛情は次郎には心動かすものではなかったのでしょうね。女はつらいよ。雪子を毒殺した次郎は今やスパイの化身。任地である北京に向け出立する。最後までクールでありました。スパイグッズや刑務所からプロを呼んでの金庫破り、遊郭での実習など、エピソードがバラエティに富む。でも冷酷なトーンについていけません。非情の雷さま、もうそのへんでと言いたくなる、それもある。しかし人間を非人間化する目的が祖国への至誠とはなんという理屈だろう。本作は事実に基づく映画です。目を背けてはいけない、と同時に、どうでもいいから戦争なんかやめろ、と言いたくなりました。

 

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