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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月10日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑩ 
切られ与三郎(下)(1960年 恋愛映画)

監督 伊藤大輔

出演 市川雷蔵/淡路恵子/中村玉緒

シネマ365日 No.3472

ふたりのビッチ

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵

お富は与三郎に惚れている。義妹のおきんを助け出すのに力を貸してくれと頼む与三郎に「あんたの片棒を担いで、お嬢さんを助けたら、一日でもいいから私を連れ出しておくれ」とかき口説く。「お富、恩に着るぜ」与三郎は喜ぶが、お富が下働きの女に「あんな獄破りと一緒になったって先はないよ」とこき下ろしているのを聞く。「よっぽど俺は甘く見られているのだな」と冷たくお富を見据える。女中を言いくるめるために言ったのだというお富の言葉を信じないで斬る。これはちょっとかわいそうであろう。何しろお富は出奔のために身のまわりのものをまとめていたのだ。与三郎という男は散々女でひどい目にあってきたから、疑い深くなってしまったのさ、仕方ないよ、とは言えないだろう。女で背負い込んだ苦労が身につかず、女の本音と本心を見抜けない男になっていたとしたら、そっちの方こそ始末が悪い▼与三郎とは「よかれ」と思ってしたことがすべて裏目にでる男だ。実子に跡を継がせることが「よかれ」と思って出奔した、お富と恋に落ち「よかれ」と思って駆け落ちした、女歌舞伎の桂(中村玉緒)に一緒に逃げてくれと縋りつかれ「よかれ」と腹を決めたら、女は殺しの罪を与三郎になすりつける。それにしても中村玉緒はうまかった。彼女の演技開眼は一般にブルーリボン助演女優賞の「大菩薩峠」と言われるが、本作ですでに開眼していたと思う。与三郎を恋する旅芸人一座の役者から、売り飛ばされて親分の情人になる。ここから抜け出すためなら誰でも、どんな手を使ってもいい、そんな女の前に女運がいいのか悪いのかわからないが、女に頼まれたらいやと言えない与三郎が現れた。千載一遇である。身勝手なセリフを言いまくり、後生だから逃げてくれ、その舌の根も乾かぬうちに自分はそそのかされただけだとは、与三郎でなくとも目を剥く▼お富にしても桂にしても、男によって泥沼から浮き上がろうとあがく女たちだ。淡路恵子が、どちらかというサバサバした気性で小股の切れ上がった女を存分に演じる。中村玉緒はもっと陰湿さを感じさせた。男を引きずり込んで我が身だけは生き延びようという、ヴァンプタイプである。与三郎は間違えばヘタレ男なのだが、薄汚くはない。卑しくもない。女でダメになるのも男の栄光とでも言いたげな男である。だからこそ最後は義妹と心中だ。冨士眞奈美は先の2女優に比べるとネンネ同然で、与三郎が命を捨てるのは、結局汚れを知らぬお嬢ちゃんがお似合いなのだ。そこを雷さまがキレイに演じて、与三郎は悲劇的な恋のヒーローになった。お富と桂を殺してしまうのも与三郎の幼さだ。成熟した女は手に余るのである。でもよそう。切られ与三郎は女のために顔も体も心も傷だらけになった、そんな自分にどこか撞着できるものがあったのではないか。そう思う方が与三郎にはふさわしい。

 

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