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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月11日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑪ 
ぼんち(上)(1960年 社会派映画)

監督 市川崑

出演 市川雷蔵/若尾文子/山田五十鈴/京マチ子/越路吹雪/草笛光子/船越英二/中村鴈治郎

シネマ365日 No.3473

“ぼんち”の面目 

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵

「うちは船場で4代続いた足袋問屋。わてで5代目や。船場も今はのうなってしもて、女はもうごめんや」そんな喜久治(市川雷蔵)の回想で始まる。シーンは一転、喜久治の青年時代だ。素っ裸の喜久治が人形みたいに突っ立ち、女中が背中にパウダーをはたき、褌をつける。「月の1日と15日になると、奥うちの者(もん、と読む)は下着からすっぽりさらに着替える。そのため3人のお針女が1年中暗い縫い物部屋で針仕事や。なんでそんなことせんならん」返事は一言「船場のしきたりでございます」。昭和初期、戦争前の船場の老舗といえばセレブの中のセレブだ。喜久治の祖母と母・勢以(山田五十鈴)は「しきたり」を厳守することで商家の背骨を守っている。ある日喜久治は「菊ぼん、おなご遊びが過ぎるのやおまへんか。世間的にはまだ部屋住みでっせ。カッコ悪い遊びをやめるか、嫁さん貰うか、どっちかにしなはれ」祖母に引導を渡された▼喜久治とはおとなしいのかふてぶてしいのかわからない。祖母と母、このモンスター女2人の軋轢を柳に風と受け流し、2人が進める縁談を平々と承知。嫁いできたのが弘子(中村玉緒)だ。大根の切り方一つにも「船場には船場のしきたりがおます」。弘子が男の子を産んだ。子を産めば要はないとばかり「うちの家風に合いまへん。引き取ってもらい」弘子の父親が来て「暖簾のないうちの店でも、商家のしきたりには口を出せんことくらい知っています」怒りを抑えていうが、仲人はアタマにきた。「二度と船場の縁談には口を出しまへん」座布団を蹴立てて帰った。喜久治は暇を告げる弘子に「かんにんやで」と小さく謝る。喜久治の父・喜兵衛は養子だ。胸を病み奥座敷に寝付いている。「どんな塩梅だす?」見舞いに顔を出した喜久治に「わての代にどれだけ身上増やした? 15で丁稚、26で養子に来て25年。今度の取り付け騒ぎ(昭和の金融恐慌)は、わてが事前に察知して、あちこちの銀行に預金を分けたから河内屋は潰れんで済んだ」「お父はんとお母はんは夫婦でっか?」「それでお前が生まれたんやないか。せやけど布団の中でモノ言うたことない。菊ぼん、気骨のある“ぼんち”になってや。“ぼんぼん”で終わったらあかんで」。喜兵衛は骨身を押しまず働き、身上を守り、危機を切り抜けた立派な商人だ。でも女系家族の祖母と母にしたら種馬に過ぎず、喜兵衛の価値にふさわしいリスペクトはなかった。喜兵衛には8年越しの女性がいた。喜久治は感心する。「お父はんも偉い奴やなあ」。彼はその女性を訪ね、父の身の回りの世話を頼んだ。仏頂面の祖母や母を尻目に、親孝行が悪いのかとニコニコしながら意を通す▼出演者の中で京マチ子、山田五十鈴は大阪市生まれ、雷蔵は京都生まれだが大阪の天王寺中学(のち天王寺高校。府下有数の進学校)に学ぶ。越路吹雪は宝塚出身。船場の空気を肌で知る演者たちは融通無碍だ。耳に心地よい大阪弁、のびのびしたお茶屋遊びの所作・振る舞い。綿密な時代考証。古い広い町家の瓦屋根が並ぶ昭和のセレブ街。喜久治をめぐる4人の女が登場する。どの女にも喜久治はやさしく分け隔てせず、金を惜しまず、あっぱれ「ぼんち」の面目を躍如としていく。

 

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