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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月12日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑫ 
ぼんち(下)(1960年 社会派映画)

監督 市川崑

出演 市川雷蔵/若尾文子/山田五十鈴/京マチ子/越路吹雪/草笛光子/船越英二/中村鴈治郎

シネマ365日 No.3474

最後の一句

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵

ぽん太(若尾文子)は親代々の芸者。喜久治の最初の女。旦那衆からもらった指輪をはめて座敷に出るのが生き甲斐だ。ずらずら指輪をはめた指をうっとり眺めるポン太に、喜久治は「わてがお前の指輪、1つにしたる」。そう言って囲い、子が産まれた。船場のしきたりでは「外の子」は本家に入れない。喜久治は充分な手当を出し、ぽん太の「太」をとって「太郎」と名付ける。2人目は幾子(草笛光子)。つましい性格で贅沢を望まず、喜久治にシガレットケースを贈る。「わて、人に物もろうたの、初めてや」喜久治は素直に喜びを表す。純情なのであります。彼女はアイデアがよく、男がすぐ解ける帯の結び方などを考案し、喜久治を感心させる。彼女からヒントを得た「色足袋」は喜久治のオリジナルだ。燕脂、紫、濃緑。色鮮やかな足袋は足袋の常識を打ち破る。だが幾子は若くして亡くなり息子が残った。喜久治は親切な里親に預ける。面倒見がいい▼3人目がホステスの比佐子(越路吹雪)。馬ヅラの趣味が競馬と聞いて吹き出した。洋服で競馬場に付き合った喜久治は風邪をひき比佐子のアパートで高熱を出す、番頭2人が平身低頭して旦那を迎えに来た。4人目が料亭の中居のお福(京マチ子)。気難しい祖母が「あの子に女の子を産まし」と喜久治に命じるほどマネジメントに長けている。喜久治はそつなくどの女も親切に遇する。戦争が激しくなり大阪は空襲で焼け野原になった。河内屋は焼け跡に蔵だけが残った。女たちを集めた喜久治は、胴巻きに巻いた現金を目の前で4等分した。「10万円ある。全財産や。これ持って河内長野のうちの菩提寺に行け。ここに残ってたら空襲で焼け死ぬ」。女たちは遠慮なく現金を受け取り寺に疎開する。1年半後。戦争も終わり喜久治は菩提寺に女たちを訪れた。山門をくぐると「アハハハ」大きな笑い声がする。風呂場だ▼女たちが豊満な肉体を惜しげもなく見せあい、湯をかけたり、小突いたりしながら仲良く湯船で喋っている。「これからどうする?」「わては芸者置屋やります。親からの仕事やし」とぽん太。「私は株」と比佐子。お福は「当分のんびり暮らせるのでここにしばらくいるわ」。喜久治は恐ろし気に踵を返して船場に戻り、生き残りの番頭和助に言う。「みなムッチリとよう肥えてたわ。女という肉体を持った生き物や」ほとほと感心した喜久治は和助に金を持たせて寺にやり、綺麗さっぱりかたをつけた。喜久治は再婚したが妻に先立たれた。「息子3人とお母はん抱えて苦労したわ」喜久治は妻の7回忌にきてくれた落語家・春団子(中村鴈治郎=当時)に述懐する。喜久治も初老である。息子の太郎(ぽん太の子)は家を売れというが喜久治は頑として「売らん」。和助は焼け野原に取り残された喜久治に聞いたことがある。「旦さん、このさきどうなります?」番頭の心配顔に喜久治は微笑みで返し「店、建てよか。店さえあればなんとかなる」番頭は感激する。「わてはもうアカンと思うてましたのに、店建てるなんて、旦さんは立派や」そしてついていくのである▼ついていくのがもう1人居た。女中のトキである。多分喜久治ボンボンが好きだったのだろう。素っ裸の喜久治の着替えをいつも手伝っていたのが彼女だ。「旦那はんはボンボン育ちでおましたけど、根性の据わった男でした。船場にお生まれにならなかったら、あんなやさしいお心を持っておられなんだら、立派なぼんちになれたお人やった」…ということは、喜久治は「ぼんち」になれなかったってことか。原作者・山崎豊子はそれが気にいらなかった。「ぼんち」とは気骨と柔軟性を備えたソフトパワーなのである。がめついだけではない、やり手であるだけでもない、金を儲けるのも使うのも一流、人を魅了しビジネスの鬼にもなれば蛇にもなるが人を踏みつけにせず、責任を取れる磨かれた男。優柔不断でありながらふてぶてしく、本音を撒き散らしながら同時に緘黙できる知的な男。大阪人ならハタと思い当たる独特の「軽み」を雷蔵は表現していたのに、最後のセリフがバランスを崩してしまった。せめてここはしょぼい落語家を演じた中村鴈治郎に締めさせてほしかった。彼ならもっと濃い、深いニュアンスを醸しただろう。一級の映画なのに慚愧に堪えない。

 

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