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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月13日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑬ 
剣鬼(上)(1965年 社会派映画)

監督 三隅研次

出演 市川雷蔵/姿美千子/佐藤慶

シネマ365日 No.3475

運命を賭ける 

特集「昭和のスター列伝3」

主人公の斑平(市川雷蔵)は陰気ではない、ネクラでもない、サイコでもまして変態でもない。母親は彼を産んですぐ死に、枕元に愛犬が侍り、10日間断食して餓死した。殉死である。犬の子だと出生を蔑まれた斑平を養父は慈しみ、身分のないお前が生きていくには一芸に秀でる他ない、誰も及ばない術を身につけよと言い残して死んだ。斑平の身分は無足。具足をつけられない最下級の武士だから無足である。無足長屋に住む。殺風景な長屋の回りにどこからか土を運び、水をやり、肥料を与え美しい花壇を作る。犬の子だから鼻が効くのだと、長屋の男たちは嘲笑するが、斑平は気にする様子もない。幼馴染のお咲に向ける笑顔はやさしく明るく、性格は穏やかで争いを好まない。だがどこかに、生まれながらの影がある。雷蔵はこれを演技というより気配に滲ませています▼城主側近の神部菊馬(佐藤慶)は、斑平に登城を許し城主の気持ちを季節の花々で慰めるよう斑平に命じる。見事な庭園が出来上がった。城主・海野正信は精神が不安定であった。発作的に刀を振るい、花を切り刻む城主に、思わず斑平は石を投げ城主は刀を取り落とす。菊馬が見ていた。ある日城主の馬責めに自分も加えてくれと頼んだ斑平は、馬に遅れず走り継ぐ脚力に共回りは呆然。馬乗下役に取り立てられた。斑平は孤独ながら平和に暮らしていた。しかし林の中で居合術の稽古をする初老の浪人に出会い、剣の技に魅せられる。これこそ養父が言った一芸に秀でるに足る技。「剣術には多くの技があるが、居合いは抜いて、斬って、収める。ただそれだけ。私の居合いを見ておられるがよい」。斑平は全身全霊で浪人の居合いを見つめ、目にも止まらぬ速さだった彼の刀が停止した感覚を体得する。「よく悟られた。生きているうちに誰かに伝えたかった」そう言って浪人は自分の太刀を斑平に与えた。この剣が斑平の運命を変えた。シリーズものから解放された雷蔵が、剣によって人生を切り開こうとする下級武士の翳りを自家薬籠中で体現します▼藩主正信の症状は悪化し、藩論は正信を守る保守派と、新藩主を迎えようとする改革派で二分。菊馬は藩主の尋常でない振る舞いが幕府の評定により改易につながる非常事態を恐れ、改革派の若手たちの暗殺を斑平に命じる。人を斬る衝撃に身を震わせた斑平は、11人の藩士を斬った。その中には斑平に居合を教えた恩師が含まれていた。彼は公儀隠密だった。脱走者を追う斑平の足は馬よりも速く、翻る剣は風よりも静かだ。斑平は切腹者や斬首者の刀を集めた蔵から一刀を選んだ。刀身の文様は妖しく誘いながら拒み、拒みながら招き妖艶な光を放つ。斑平は菊馬に言う。「私は世間に蔑まれながら生きてきました。それが自分の宿命なら自分の行く末をこの目で見てやると覚悟していました。この妖剣を持って何の災いも降りかからねば私の勝ち。祟りを受け非業の最期を遂げたなら世間の勝ち。この賭けをお見届けください」。

 

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