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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月15日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑮ 
破戒(上)(1962年 社会派映画)

監督 市川崑

出演 市川雷蔵/長門裕之/船越英二/藤村志保/三國連太郎/岸田今日子/中村鴈治郎

シネマ365日 No.3477

美しい日本語 

特集「昭和のスター列伝3」

瀬川丑松(市川雷蔵)は父の死に誓う。「おとっつぁん。丑松は一生素性を明かしません」。解放運動家・猪子連太郎(三國連太郎)に出会い、人間を差別する社会に憤ってはいるが、出自を明かすと社会的な立場を失う。丑松のジレンマは日に日に濃くなる。猪子が暴漢に殺された。丑松は猪子の思想と運動を継ごうと決意し、教え子たちの前に立った。それまで憂鬱のかたまりだった雷蔵が、吹っ切れた爽やかな、本来の容貌を取り戻します。「声の雷蔵」渾身の独白は美しい日本語です。少し長くなるが、本作の中核ですので敢えて引用します。「これからお話しすることがあります。みなさんと一緒に勉強するのは今日限りです。この山国に住む人5等に分かれています。旧氏族、商人とお百姓、お坊さん、他に部落民という階級があります」▼子供達は吸い込まれるように丑松を見る。「部落民は今でも町外れに住みひとかたまりになっていて、お百姓をして暮らしている人もあります。そういう人は1年に1度、稲を持ってみなさんの家にご機嫌伺いに出ます。土間に手をつき特別なお茶碗で食い物などを頂戴する。決して敷居から中へは1歩も入らないこともご存知でしょう。みなさんの方から用事があって部落へ行くとお茶は決して差し上げないのが昔からの習慣です。部落民というのはそれほど卑しい階級です。その部落民がこの教室に来て、国語や地理を教えたらどう思いますか。私は部落民なのです。みなさんも1516歳。まんざら物心を知らない歳でもないでしょう。私の言うことをよく覚えていてください。これから先、5年、10年と経って小学校時代のことを考える時、瀬川という教員に習ったこともあった、あの部落民の教員が素性を打ち明け別れを述べていく時に、正月になれば自分らと同じように屠蘇を祝い、天長節が来れば同じように君が代を歌って、陰ながら自分らの幸せを祈ると言ったことを思い出してください」▼「それほど卑しめられている部落民が、本当はみなさんと同じように、この広い世の中に生まれてきた時はただ無防備で無邪気な赤ん坊だったし、死ぬまでみなさんと同じように人間なのだと、化け物でも動物でもないのだと、噛んで含めるように訴えたことを思い出してください。私はみなさんが立派な考えをお持ちになるように、毎日そればかり心がけて教えたつもりです。曲がったことはするな、嘘をついてはいけないと教えました。その私が部落民であることを隠していたのは恥ずかしいと思います。どうか許してください。おそらく今後私が教壇に立って生徒を教えることはありますまい。この学校に赴任してきて3年、みなさんと一緒に過ごした月日が私の一生でいちばん幸せな月日であると思います。千曲川の流れに沿ってみなさんと一緒に歌いながら歩いた日のこと、雪投げに興じたこと、テニスの遊びをして私が負けみなさんの成長の早いのに驚いたこと。何もかも一緒に思い出します。この教室。干し草と太陽が混じった元気なみなさんの匂い。肩あげの筒袖を着た健康そうなみなさんを私は一生忘れません。先生、先生と言って仲良くしてくださいました。お礼を申します。ありがとうございました。みなさんのお家に帰ったら、お父さんやお母さんに私のことを話してください。部落民であることを隠していたのはすまなかったと、手をついて打ち明けたことを話してください」▼そこへ同僚の土屋(長門裕之)が駆け込んでくる。教室の床に土下座している丑松を引き起こし「瀬川君、落ち着きたまえ。ここは僕に任して君は休め」。瀬川丑松を囲む複雑な運命を背負った人物たち。それを演じる脇役に一分の隙もないこともまた、スクリーンの密度を高めている要因です。

 

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