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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月16日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑯ 
破戒(下)(1962年 社会派映画)

監督 市川崑

出演 市川雷蔵/長門裕之/船越英二/藤村志保/三國連太郎/岸田今日子/中村鴈治郎

シネマ365日 No.3478

観念していただきたいの 

特集「昭和のスター列伝3」

教室を出た丑松は雪の中に座り込む。土屋が追ってくる。「何もかも終わってしまった。父は学問をさせてくれた。そのため私は心の自由を知るようになり、その自由に死ぬほど憧れるようになったのです。一生を山の中で埋もれて死んだおとっつぁんの願いを破ってしまいました。猪子先生はそのためになくなりました。これからの丑松はひとりぼっち、名も捨て恋も捨て、一生を破戒の懺悔の旅にさすらっていくのです」。土屋は植物学者になろうという自分が「天然自然ありのままの姿がわからんというのはウソだ。同じ人間の中に平然と階級を設けた社会を疑わなかった自分が情けない。僕を許してくれ。僕は志保さん(藤村志保=瀬川が下宿している蓮華寺の養女)に教わった。志保さんは君と一生共にする覚悟だと」丑松の味方がもう1人増えた▼志保は「猪子先生の奥様(岸田今日子)も部落の出ではありません。奥様はご両親の反対を押し切って結婚なさったのです。女でも一心になれば自分の気持ちを押し通せます」。猪子夫人の岸田今日子。丑松の後半生を決める重要な役だ。「瀬川さん、なぜ学校をお辞めになるのです。私には告白なさる必要がなかったように思えるのですよ。人があなたのことを噂するなら、させてお置きなさいまし。噂だけのことですもの。面と向かって部落民かと聞かれたら、そうですと返事をあそばしウソをつくには至りません。それだけのことです。人間はみな平等だと憲法にもあります。主人も差別は間違いだと言っておりました。どうして間違った尺に合わせるのです? 普通の人間なら普通の人間のようにすればいいじゃありませんか。主人が気の毒で仕方ありません。部落民に生まれた恨み終生忘れることができなかったのでしょう。それが解放運動に没入させたのでしょう。私はただ平凡な夫であってほしかった。歴史は民衆によって変わるのではなく、傑出した個人によって変わるのだと申しますが私にはそう思えない。私が女で争うのが嫌いだからそう思うのかもしれませんが、主人のような実践家によってではなく、世の中とはいつか知らぬまにそうなっているのだろうと思うのです」▼丑松は「そんな夢のようなことは考えられません」異を唱えるが夫人は動じない。「そうでしょうか。あなたは世間の人が一様に部落民を人間として認めないとおっしゃる。でも志保さんに蓮華寺の和尚さん(中村鴈治郎)、土屋さんだって、あなたの狭い周りにさえひとつも態度を変えない人がいる。日本中ならなおさらたくさんの人がいるはず。普通の人間だとおっしゃるなら、辛いことも普通通りに受け取っていただきたいの。生きるということは苦しいことも多いと観念していただきたいの。部落出身だからというせいにしないで」…鋭利な刃のようなこの知性、しびれるなあ。猪子の志を継ぎ、一緒に東京に行かせてくれと頼む丑松に「ご苦労が絶えないことになります」「はい」「ならば一緒に参りましょう」スパッとしているのですね、この人。志保といい猪子夫人といい、女優陣がいいところをさらっています。岸田の声がまた一段と素晴らしい▼「おーい」膝まである雪を踏み東京に向かう丑松と夫人を土屋と子供達が見送りに来る。女の子が「これ玉子。茹でてあるからお母さんが先生にあげてくれと言いやした」丑松はハラハラと落涙した。志保が来る。「お志保さん。東京から呼んだら来てくださいますか」原作では別れのシーンは「ごきげんよう」だけですけど、脚本の和田夏十がだいぶ色をつけています。でも救われます。猪子夫人や土屋の意見と主張には、現在の同性愛差別に通じる新しさがあります。酒に身を滅ぼす酔いどれの教員を船越英二が好演。物語の暗部に厚みを持たせていました。

 

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