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特集「昭和のスター列伝」

2021年2月18日

特集「昭和のスター列伝3」市川雷蔵⑱ 
新・平家物語(1955年 事実に基づく映画)

監督 溝口健二

出演 市川雷蔵/久我美子/木暮実千代/大谷市次郎/進藤英太郎

シネマ365日 No.3480

反逆児・雷蔵 

特集「昭和のスター列伝3」

市川雷蔵が「花の白虎隊」でデビューした当時、大映幹部の評価はパッとしなかった。素顔は地味だし線が細く、役者というより銀行マンのタイプだった。田中徳三監督はしかし「新・平家物語」でいっぺんに変わったことを、やっぱり溝口さんの演技指導はすごいと激賞した。その溝口監督だけど、「雨月物語」が薬膳料理だとすると、本作は同監督初のカラーで吉川英治原作の歴史時代もの、主役は若き日の平清盛という、豪華フルコースの設定に(え、これが溝口?)と戸惑う。次はびっくりする。映画が始まると冒頭の混雑する市場の長回しと贅沢な画面の奥行き、次いで登場する清盛(市川雷蔵)のゲジゲジ眉に目が点。平清盛とは平安末期、衰退する公家政権から台頭する武家の時代へ、180度変換した時代の反逆児だ。骨太い男を表すのに、雷蔵は一歩引いてしまう眉メークで登場した▼残念なことに興行的には失敗だった。吉川英治は実家の経済的な困窮から小学校を中退、独学で小説を学んだ苦労人だった。彼は生活に疲れた市井の人が読むのはどんな読み物かを肌でわかっていた。誰もが共感できる情の世界、ままならない社会や制度へ覚える鬱憤のはけ口、心を癒す恋愛、時代に流されない気概あるヒーローの存在。それらはみな本作にある。侍は卑しい身分と蔑まれ、困難な戦で勝利を勝ち取ったにもかかわらず、報いられもしなければ認められもしない番犬扱い。政権は白河上皇と天皇の朝廷に分裂し、公家たちは私有地(荘園)の拡大をほしいままにして税金を免れ、国の経済は逼迫した。放火や盗賊が都に横行し、地方は野党と飢饉に悩んだ。革命とは貧しさと抑圧と差別から生じるのはどこの国も変わらない。「あいつらこそ悪党だ」。清盛は不満をぶつけてくる家の子郎党をなだめながら歯ぎしりする。不評の原因は多彩なエピソードを手際よく収めるために、全体がダイジェスト版カタログのようになり、溝口の得意とする幻想怪奇かつ詩情とは懸け離れたからと思える▼清盛の母(木暮実千代)は白河上皇との情事によって清盛を身ごもり、彼女のわがままに手を焼いた上皇が臣下の平忠盛(大谷市次郎)に彼女を妻にして丸く収めてくれと頼む。古武士の忠節を尽くし、息子清盛に争うだけが武士ではない、知的リーダーの生き方を示す忠盛に存在感がある。木暮実千代は豊満な胸をチラチラ見せる得意の悪女役でグッド。あべこべに忠盛を後援する学究肌の藤原時信の娘時子(久我美子)は、華美な公家とは無縁の生活実務派で清盛は惹かれる。面白いのは政商・伴卜(ばんぼく=進藤英太郎)だ。西海の海賊を平らげた清盛に通商の便宜を図ってくれと頼み「今ならライバルはいないからボロ儲けできる。あなたの体を買いましょう。あなたに賭ける。資金繰りは引き受ける」と胸を叩く。「面白い。売ろう」と清盛。こう言う無鉄砲なアウトサイダーによって歴史は切り開かれるのだ。比叡山の僧兵二千人の騒乱を沈めた清盛は、公家の花見で情人と浮かれる母親を見ながら(あれはあれで仕方ないな〜)と自分に言い聞かせる一方で、「今のうちに浮かれておれ。明日は俺たちのものだ」とつぶやくのは出来過ぎのセリフとしても「締め」になっている。興行的には失敗作とされたが、失望作ではなかった。

 

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